導入
アロンドラは、魔都市スペルニアがあると思われる島の
周囲を流れる川に沿って歩いていた。
やがて、島へと陸続きになっている開けた場所を見つけ、そこから足を踏み入れようとした。
ゴンッ!
「いたっ!」
アロンドラは思いきり何かにぶつかった。
目の前には何もないはずなのに、確かに見えない壁が存在している。
これがアリアネとメルセデスが言っていた結界なのか。
魔都市と外界を分かつ障害なのか。
とりあえず、アロンドラは愛用の巨斧を力いっぱい振るってみた。
ドガッ! ガキン! バコン! ズガッ!
「はっ! なんだこのっ! やあっ! はああああっ!」
体力にだけは自信のあるアロンドラの強力な攻撃が、
見えない結界に叩きつけられる。
効果があるのかないのかはわからないが、
とりあえずそのまま攻撃を続けてみた。
◆ ◆ ◆
「なんなのよ! こいつ!」
ドロシーは水晶を見ながらひどく苛立っていた。
「この結界は私の精神そのものなのよ!
あんたがガンガン揺らすと、耳鳴りみたいに頭に響くのよ!
あーイライラする!」
しかし、水晶の中に映るアロンドラは一向に手を止める気配がない。
「こいつ、いつまで続けるのよ! なんなのよこいつ!」
たまたまドロシーに会いに来ていたイレナが、
横から水晶を覗き込んだ。
「へー。誰コイツ。この方角はガルガンティスよね?
この前あんたが追い払った奴の仲間かな?」
「知らないわよ! こいついつまでガンガンやってるわけ?
もう1時間ぐらいやってるわよ」
「なんかバカそうね、コイツ」
「バカに決まってるでしょ!
見えない空間に向かって斧を振り続けてるんだから!」
「あんた、眉間のシワが凄いことになっているわよ」
「あんたの眉間にも刻んでやろうか?」
「こわっ」
「ああもう、イライラする! こいついつまで続けるのかしら」
「……しょーがないわね。私が行ってこようか?」
「どうすんのよ」
「追い払うのよ」
「スペルニア域外で魔術を使っちゃダメなのよ」
「大丈夫でしょ。実際のスペルニアの領土はもう少し広いんだから」
「そうだけど……魔術の存在は知られちゃダメなのよ」
「あんたもガルガンティスの奴らに姿見られてるんだから、一緒でしょ」
「う、ぐ……そうだけど」
「ということで、ちょっと行ってくるわ」
◆ ◆ ◆
ドガッ! ズガッ!
「はぁ……はぁ……なかなか変化がないなぁ……。
この見えない結界、どうなっているんだろ」
ガンッ! ガンガンガンガン!
「もういっちょ!」
その時だった。
「そのぐらいにしてあげてくれなーい?」
「え?」
声がした瞬間、
アロンドラは何かに引き戻されるように大きく後ろへと飛ばされた。
「わあっ!」
ドサッ!
アロンドラは地面に勢いよくしりもちをついた。
見上げると、岩の上に一人の女が立っていた。
「君は……」
「はぁい。初めまして」
「君は誰ですか? ……スペルニアの……」
「そうよ。イレナっていうの」
「き、君はスペルニアの人なんだね!!」
アロンドラが目を輝かせたので、イレナは少しぎょっとした。
「そ、そうだけど」
「僕! ガルガンティスのアロンドラって言います!
僕の知り合いが数か月前にこの辺に来たんだ。
さっきまでそこに見えない壁があって通れないんだけど、通り方知らないかい?」
「あ、それは無理」
「えっ?」
「スペルニアは外界の人間は入っちゃだめなの」
「そ、そんなぁ……」
アロンドラは少し落ち込んだ様子を見せたが、すぐにまた前へと歩き出した。
「?」
イレナは不思議そうな顔をした。
ガン! ガン! ズガッ!
またしてもアロンドラは結界を叩き始めた。
「ちょ、ちょっとあんた何してんのよ!」
「やっぱり、僕はもう少し頑張ってみようと思います」
ブチッ。
イレナの堪忍袋の緒が切れた。
「やめろって言ってんのよ!」
イレナの周囲に魔法陣が浮かび上がり、アロンドラの周りへと飛んで行った。
ブオオオオッ!
魔法陣から突風が吹き荒れ、アロンドラは再び遠くへと吹き飛ばされた。
「うわっ! ……何すんですか!」
アロンドラも少しイライラしたように抗議する。
「なんであんたがイライラしてんのよ。イライラしてるのはこっちだわ!」
イレナは叫んだ。
「あたしたちは絶対にあんたを入れないから、あきらめて帰れ!」
「嫌だ!」
「嫌だじゃねぇ! 力づくで帰らせるわよ!」
アロンドラは大きな斧を構え直し、イレナと正面から向き合った。
「あんた私の力を知らないのね? 魔法国家の力を思い知らせてやるわ」
――その時だった。後ろから静かな足音が聞こえてきた。
「楽しそうなところに鉢合わせたな……。アロンドラ、手を貸すぞ」
アロンドラはその声に聞き覚えがあった。
少しずつ気持ちが高揚していくのがわかる。
背後から現れたのは、十将軍『朱雀』のキルスティだった。
「キルスティ! どうしてここに?」
「……私もアリアネとメルセデスの件には興味があった」
「そうなんだ。助かるよ、キルスティ」
「ふん。すべてが未知なのだ。油断するなアロンドラ」
「僕の名前を呼んでくれるなんて不思議な感じだ。
お城では接点がないから。よろしく、キルスティ!」
アロンドラが握手をしようと手を差し出したが、キルスティはそれを無視した。
「……なんなのよ、あんたら」
イレナは苛立ちを隠そうともしない。
キルスティは無言のまま、イレナめがけて飛び掛かった。
ガキンッ!
しかし、見えない壁にキルスティの攻撃が阻まれる。
「!!!」
イレナの表情が一気に険しくなった。
「……私に剣を向けたわね? いいじゃない。遊んであげるわ……おもちゃが壊れるまでね」
その時、イレナの意識の中にドロシーの声が流れ込んできた。
(イレナ。私が結界をあんたの周りに作ってサポートするから、
アイツらを追い返しなさい。あー、頭のガンガンがようやくマシになったわ)
『任せて。こいつらに恐怖を植え付けて、二度とこの辺に来ない様にするから』
「楽しみだ。やってみろ」
キルスティは鋭く睨みつけ、好戦的に笑った。
「よーし! いっちょやってみるか!」
アロンドラは大きな叫び声をあげ、巨斧を構えた。
決着
キルスティは無言で鋭い斬撃をイレナに対して何度も繰り出した。
しかしイレナを包み込む結界がその斬撃を堅く跳ね返す。
「くっ・・・」
「ふふっ。野蛮な騎士さんね!思い知らせてあげるわ・・・」
イレナが持っているバトンを振ると無数の魔法陣が
イレナの前に現れた。
そのうち二つの魔法陣がキルスティの前に現れると
そこから真空を巻き込んだ突風が吹きだした。
ゴオッ
「くっ!」
真空が刃となってキルスティに傷をつける。
さらに別の魔法陣が現れると炎を吐き出した。
キルスティは距離を取りイレナを睨みつけた。
「魔法・・・」
「すごいでしょ?正直、ここはスペルニアの中心部じゃないから
本調子じゃないんだけどね~。魔力が高まらない」
「キルスティ~~!」
アロンドラが大きな斧でイレナに飛び掛かった。
ズガン!!ギギギ・・・
「くそぉ・・・」
「あはは!私の相棒の結界はそんな攻撃じゃ破れないわよ!
お仕置きよ・・・」
複数の魔法陣がアロンドラを取り囲んだ。
魔法陣からまぶしい雷が発生した。
ビビビビビ
「うっ・・あっ・・・あああああああっ!」
アロンドラは電撃をその身に受けた。
「アロンドラ!ちっ!」
ガキン!
キルスティがイレナに剣を振りぬくとまたしても結界に弾かれた。
「あなたにも電撃を上げるわ!」
魔法陣から電光が鋭く放たれる。
ビッ!ビッ!ビッ!
「むっ!っちっ!はっ!」
キルスティはその攻撃を間一髪ですべて避けていく。
「くっ・・・なんて素早い動き・・・」
「ああああああああああああっ!・・・くっくそおっ!」
アロンドラは魔法陣の外側へと力づくで抜け出した。
全ての魔法陣はイレナに戻っていきイレナの周辺を浮遊している。
「大丈夫かアロンドラ」
「あ、ありがとうキルスティ。どうしようか?」
「ふん。私がやることは変わらん。向かっていくだけだ」
「そうだね!僕もやるよ」
イレナは呆れた表情で2人を見ている。
「まったく、さっさと諦めて帰ってよね~」
(あんた!何やってんのよ!早く追い返しなさいよ!)
頭の中でドロシーが叫んでいる。
「うるさいな~。今楽しんでいるんだから~」
(私は前回の二人を知ってるから言ってんの!
あんた舐めてると足元救われるわよ!)
「もう~ドロシーったら心配性ね~。大丈夫って。諦めて帰るわよ。
大体、私は今、停滞期で魔力があんまりないし」
(はぁ?なんでじゃあ出ていったのよ!)
「え~?見たいじゃない。侵入者」
(バカじゃないの?本当にバカじゃないの?)
「大丈夫ってもうそろそろ本気出すから~、
ってキャッ!」
と、その時、キルスティの斬撃がイレナの頬を掠めた。
「何をよそ見している?」
イラッ
「いいじゃない・・・。ぶっ倒してやろうじゃない」
イレナの周りの魔力が吹き荒れた。
「はあっ!とやっ!そらっ!」
ガキン!ズガン!バキッ!
アロンドラの斧の攻撃はイレナのバリアを壊せない。
「あんた本当に馬鹿ね!学習能力ないの?」
「うるさいな~もう!」
聞く耳を持たないアロンドラは一心不乱に斧を振る。
「真上はどうだ?」
瞬時に現れたキルスティが頭上から降りてきて攻撃してきた!
「!キャッ!」
ガキン!
結界はイレナを守った。
「はっ・・・はっ・・・なんか疲れて来ちゃった」
イレナの表情から余裕が消えてきた。
(普段から動いてないからよ)
ドロシーの声が聞こえてきた。
「うるさいわね!黙っててよ!」
アロンドラはイレナの独り言にびっくりした。
キルスティも不思議な表情を浮かべた。
「もう終わらせるわ!はああああっ!」
イレナの周りにオーラが収縮した。
「バースト!!!」
ヒュン・・・・ドガーン!!!!!!!
瞬時にイレナの周囲から放射状のオーラが放たれた。
キルスティは岩壁に叩きつけられた。
「ぐあっ!」
アロンドラは遠くに飛ばされて地面にしりもちをついた。
「なんだあっ??」
「凄まじい威力だ・・・」
キルスティはよろめきながらイレナを睨んだ。
「痛てて・・・滅茶苦茶だなぁ・・・」
アロンドラはイレナを見た、と同時に何かに気づいた。
「あれ?ここは・・・」
イレナは叫んだ。
「わかった?アンタたち!私がその気になれば
あんたたちなんて木っ端みじんに出来るんだからね!
さっさと帰りなさい!」
(さっさと帰らせなさいよ)
「黙っててよ!」
アロンドラにはまたイレナが独り言を言っているように見えた。
アロンドラがキルスティに近づいて行った。
「ねぇねぇキルスティ。」
「?」
「ゴニョゴニョゴニョ・・・」
キルスティは笑った。
「それはいい情報だ。やってみろアロンドラ」
アロンドラは無言で頷いた。
「なにをやるってのよ!ふん!
侵入者たち!イレナ様にたてつくとどうなるか思い知らせてやるわ!」
(魔王かなんかなの?)
「うるさいって!」
また独り言だ、とアロンドラが思ったあと叫んだ。
「よし!いくよキルスティ!」
キルスティが頷くと同時に、
アロンドラは後ろを向いてスペルニアのほうに走っていった。
「???ちょ、ちょっとどこ行くのよあいつ」
(まずい!・・・ブツブツブツ)
「はああああああっ!」
ズガン!ガキン!バキッ!ドガッ!
アロンドラはこれまで以上にスペルニアの結界を叩き始めた。
「な、なにやってんのよ!」
と叫んだイレナの目の前にキルスティが現れた。
「いくぞ!はああああっ」
キルスティから炎のようなオーラが出ると同時に
散弾銃のような剣の殴打を繰り出した。
「あはははっ!何べんやっても一緒だって!
ドロシーの結界は・・・って、あれ?」
ピキッ・・・・・
(ま、まずい!イレナ!
あのバカの攻撃から防ぐためにスペルニア側の結界を強めたら
あんたの結界が弱くなっているわ!)
「え?」
パーン!
結界が割れる音がした。
ズオオオオオッ!!
「い、イヤアアアッ!」
「はあああああああああああああっ!」
キルスティの猛撃がイレナをとらえた。
ザシュッ!
「う、そでしょ・・・」
ザパーン!
吹き飛ばされたイレナは川に落ちた。
「そりゃっ!おいっ!さっ、さと!壊れろ!」
ズガン!ガキン!バキッ!ドガッ!
延々とアロンドラは結界を攻撃している。
キルスティはアロンドラに声をかけた。
「アロンドラ、ひとまずいいぞ」
「え?倒したの?」
「ああ。お前が気づいた通りアイツのバリアが弱くなっていた。」
「やっぱり?さっき吹き飛ばされたとき、
最初の結界があった場所の内側だったからあの時は結界が無くなってたんだよね」
「あの魔法使いのために結界を移動していたのだろう。
そしてお前がまた結界を攻撃し始めたから、あの魔法使いのバリアを弱めて
そちらに力を分割した。まあそんなところだろう」
「うん。・・・あ、そうだ!あの娘は?助けて話を聞こうよ」
「ああ。川に吹き飛ばしたからその辺にいるだろう。
まあ、急所は避けたから死んではいないだろう」
「容赦ないねキルスティ」
水晶の前でドロシーは頭を抱えて震えた。
「な・・・なんてこと・・・九魔界が外界で・・・」
◆ ◆ ◆
続く