World Chronicle / Battle Record 052

アデラvsミア

アデラアデラ・ヘーグマン
VS
ミアミア・バルシュミーデ

役員特権による議会での否決権行使。 その重責をジモーネから託されたアデラは、 小隊を率いて民軍両院会館を目指し、中枢へと急いでいた。 道中、何者かの襲撃を受ける。 明らかに自分を足止めすることが目的だった。 理由は不明だが、アデラは足を止めなかった。 「まったく……いつの間…

Compiled Battle Record

導入と決着

戦闘記録 052

導入

役員特権による議会での否決権行使。
その重責をジモーネから託されたアデラは、
小隊を率いて民軍両院会館を目指し、中枢へと急いでいた。
道中、何者かの襲撃を受ける。
明らかに自分を足止めすることが目的だった。
理由は不明だが、アデラは足を止めなかった。

「まったく……いつの間にこの国は、
第三国の勢力に侵食されていたのかしら。
……ジモーネに任せっきりにしていた私も悪いわね」

ノシアス共和国中区の関門を突破したアデラは、異様な光景に息を呑んだ。
アームストンの旗が、そこかしこで翻っている。

「ここは……ノシアスよね」

通り過ぎる街並みの異様さに、背筋が凍る思いだった。
ノシアス国事会館へと続く道には幾重ものバリケードが築かれ、
入域には厳格な手続きが必要となっていた。
関所の検問で、再び足止めを食らう。

「アデラ様……申し訳ありませんが、
軍事院の方を通すことはできません。許可が下りるのは三日後です」

アデラは驚いたが、同時に予期もしていた。

「……なぜだ」

いつも穏やかなアデラの瞳にも、怒りの炎が灯っていた。

「民事院マーラ様の命となっております」
「認めない」

アデラは突っぱねた。
「民事院と軍事院は独立権限であり、軍事院は民事院の指図を受ける必要はないはずよ」
「し、しかし……」
アデラは返答も待たず、衛兵を押しのけて強行突破を試みた。

「あ、アデラ様……お待ちを……。あなたが通過すれば……私たちが……」

不安に顔を歪める衛兵に、アデラは歩みを止めて声をかけた。

「愚かな指導者を放置してきた私たち軍事院に、全ての責任がある。
……惨めな思いをさせて申し訳ないわね。
……少し待っていなさい。私が必ず何とかするわ」

衛兵は制止しようと伸ばした手をゆっくりと下ろし、
俯いて黙り込んだ。小刻みに体が震えている。
アデラは軽く頭を下げると、そのまま関所を抜けた。

関所を越えたアデラの耳に、新たな声がかかる。

「あなた……良いね」

壁に背中を預け、腕を組んでいる真っ白なスーツの女。

「……誰?」

アデラが問いかけると、女はゆっくりと間合いを詰めてきた。

「ミアよ。アームストンの騎士」

アデラは一瞬で見極めた。手練れだ。面識はないが、大公であると確信した。

「どういうつもり?」

ミアはその反応に少し目を見開いた。

「え?」

「あなたでしょう、私に刺客を差し向けて足止めをさせ、常に監視をさせているのは」

ミアは少し考えたのち、口を開いた。

「ん~……そういうことか」

「え?」

アデラの困惑した表情に、ミアは楽しげに笑う。

「いや、私もその刺客の一人に過ぎないんだ、と思っただけ。
私も駒ってわけだ。良い気はしないわね。何も知らないし」

アデラは目を閉じ、額に手を当てた。

「どういうことかしら?」

ミアは腕組みをしたまま上を向いた。

「私は『強い奴と戦え』という名目で、
ヴァイスパに行くかノシアスに行くか選択を迫られただけ」

アデラは間髪入れずに言い放つ。

「なら、干渉しないで」

ミアは返した。

「この関所を通る強い奴と戦え、が私への指令だからね。
目の前に獲物があるなら……狩るよね」

アデラは苛立ちを露わにした。

「国の命運がかかっているの……邪魔しないで」

ミアは挑発するように笑う。

「少し本気になるのが遅いんじゃないの」

「……まだ間に合うわ」

ミアが巨大な剣を抜き放ち、構えをとる。

「なら……私を倒していかなきゃね」

アデラも剣を抜いた。

「やるしかないようね……」

ミアの体が引き締まり、殺気が膨れ上がる。

「手合わせするまでもなく、あなたの実力はわかるよ。楽しい戦いになりそうだ」

アデラは怒りの表情のまま呟いた。

「ジモーネ、力を貸してください」

決着

アデラは怒りに満ちた表情をミアに向けた。
「お願い……邪魔しないで」
その言葉には、拒絶と命令が混じっていた。
ミアは少し意地悪い笑みを浮かべて答える。
「騎士の礼儀は騎士道で返すのが礼儀だからね。邪魔するつもりはないよ」

アデラが飛び掛かった。
「これのどこが騎士道か! どきなさい!」
アデラが重ねた二刀の一撃が、ミアの正面に振り落とされる。
ガキン!
「くっ」
「んん。良い衝撃だ……」
ミアは両手持ちの大剣でアデラの攻撃を受け止めた。

「はああああっ!」
ミアは二の腕の筋肉を膨らませ、アデラの体ごと持ち上げる勢いでその剣をはねのけた。
「しゃっ!」
ミアが大剣を横一線に振り抜く。
アデラは飛び退いて距離を取ったが、その服装は切り裂かれている。
大剣が放つ衝撃により、周囲の気流が乱れていた。

「凄まじい攻撃……」
アデラは思わず口走った。
ミアは嬉しそうに笑う。
「君もその攻撃をしっかり見極めてる……」
アデラは相手を睨みつけた。
「簡単に終わらなそうね……」

ミアは頭に手を当てて言った。
「お互いに実力が伯仲しているとそうなるよね。……じゃあ、今度はこちらから行こうかな!」
ドンッ!
ミアが地面を蹴りつけた音は大砲のようだ。
瞬時にアデラの正面に躍り出たかと思うと、ミアの姿は一瞬にして空中に舞った。
「行くぞ!」
剣を抱え込むように構え、ミアはアデラめがけて急降下した。

「! これは……危ない!」
アデラは二本の剣を地面に突き立て、そのしなりをバネにして水平に飛びのいた。
ドゴオオオオン……!
ミアの大剣はまるで彗星のように着弾し、レンガ舗装された道路に巨大な穴をあけた。
その中央で、ミアは土埃をかぶりながらも無邪気に笑っている。
「あは、避けられたか〜」

アデラは地面の惨状を見つめ、再度ミアを睨みつけた。
「私は……こんなことをしている暇はないの。邪魔しないで」
ミアは勝ち誇ったような顔で両手を広げ、アデラへゆっくりと歩み寄る。
「あは……楽しいからいいじゃない。私は雪山に籠もってたから、
君のような強い騎士と手合わせできて嬉しいんだよ。国なんかどうでもいいじゃない。
ほっといてさ……気の済むまで戦おうよ」

アデラはゆっくりと俯いた。
「……国なんか?」
ミアは、ぞわっと身の毛がよだつ感覚を覚えた。
「え?」
「あなたに何がわかるの……?」
アデラの肩が震えている。

「この国はもともと軍事国家よ。でも他国のように、軍が悪政を敷いてきた事実はないわ。
……なのに、一部の影響力を持つ民たちが『軍を持つのを止めよう』と言い始めた。
そのせいで、どんどん『民意』というものが力を持ち始めたわ。
軍はいらない、力じゃなく産業を育てて国を強くしよう、って……」

「そして選挙が行われるようになり、軍は国家権力を失って『軍事院』という合議体に変えられた。
民間の代表者で選ばれる『民事院』と同格に扱われるようになったわ。
もともと軍出身だった私たちは、それだけで悪者にされた。
軍事院ですら軍と同じだ、解体すべきだって今も言われてる。
……それはそれでよかったの。国がそれで良い形になるのなら」

アデラの声が低くなる。
「……でも実際は違った。民事院の一部の人間にしてみれば、
この国の歴史を作ってきた『ノシアス軍』という理念と歴史を壊したかっただけなのよ。
……そして、あなたたちアームストンの軍隊を引き入れて
……私たち軍事院を消そうとしてる。それが、いま行われていること」

ミアは、アデラの視線から目を逸らさず微動だにしない。
「おかしいと思わない?
私たちノシアス軍は国のために戦ってきたの。
どうして私たちノシアス人の軍隊を排除して、
貴方たちアームストンの軍隊を入れなきゃいけないの?
軍は要らないんじゃなかったの?
……私にはわからない」

ミアは目をつむってその言葉を聞いていた。
「私も一時期は……もうどうでもいいと思っていたわ。
私たちノシアス軍の人間は邪魔者。
好きにすればいい、ってね。
……でも、ジモーネたちだけが一人で戦い続けていた。
……そのジモーネに託されたの。どうでもよくなんてない!!!」

アデラが大声で叫ぶと、全身から凄まじい気迫が噴出した。
ミアは目を見開き、剣を構え直す。
「……全力で行きます!」

アデラは低く構え、二刀を水平に保持したままミアに向けて突進した。
今までの速度とは桁違いだ。
「なっ、なんて……」
ミアが言いかけた瞬間、アデラの斬撃が脇腹を捉えた。
「がっ!」
アデラの気迫がミアを圧し潰す。
「はああああああああっ!」
渾身の一撃が炸裂した。

「きゃああああっ!」
ミアは勢いよく吹き飛ばされ、レンガ造りの壁に叩きつけられた。
ズガアアアアアン!
……
……
……
パラパラと瓦礫が崩れる音を立てて、ミアはゆっくりと立ち上がった。
だが、すぐにバランスを崩して地面に剣を突き立て、かろうじて身体を支える。
「はぁ……はぁ……」
その様子を見ていたアデラも息を乱していたが、やがて直立し、ミアに背を向けた。
「お願いします……行かせてください」
その言葉には、切実な懇願が込められていた。

ミアは膝をついたまま、アデラの背中を見つめていた。
「……やっぱり、私の見立て通りだ。すごい騎士だよ。……これ以上やると、本当に『邪魔』になっちゃうね」

アデラが歩き出そうとした瞬間、ミアが叫んだ。
「少し休んだら、私も追いかけるよ! アームストン側の人間として……君を応援したい!」
アデラは驚いた顔を見せた後、軽く頭を下げて去っていった。
ミアは地面に手をつき、空を見上げた。
「……覚悟の違い、かなぁ……」