導入
アレクサンドラの農国シルクス防衛協力の提案を受け
嬉々として任務を引き受けたアームストン王国百剣大公アンシェリーク・クライフは
農国シルクスの大地を踏んでいた。
シルクスに到着すると同時に、王女が不在であったため、
時間を潰すためにもとりあえず衛兵から情報収集を行い、
不審者の目撃が多い地域に赴き完全独立行動をしていた。
「さすが田舎。農地と田んぼと森ばかりで何もないじゃないか」
アンシェリークは日に日にアームストンに帰りたいと思っていた。
とはいえ、何もせず変えるのも癪なので
アンシェリークは不審者が出たという北部の田舎町に滞在していた。
その不審者はヴァイスパのほうからやってきて、
たまに農作物を盗んでいくというものだった。
その話を聞いてアンシェリークは
あまりのスケールの小ささに萎えていた。
「私はもっと巨悪と戦いたいんだが・・・イノシシ退治じゃないか」
そんなことをぶつくさ言いながら
田舎道を散策していると異様を察知した。
アンシェリークは強大な気を感じる方向に走っていった。
「何かいる・・・」
アンシェリークは俊足で田舎道を駆け湖のほとりに出た。
何かいる
「あん?なんだぁ?」
池のそばに明らかに角が生えた女が何か食べていた。
アンシェリークは問うた。
「・・・お前は?」
「・・・そっちから言え!」
角の生えた女はイラついた。
「私はアームストン大公アンシェリークだ。」
「あたしタウロスだよ」
「・・・何をしている?」
「休憩」
「ここは農国シルクスの領土だぞ」
「それが?」
「自分の巣に帰れ」
その言い方にイラっとしたのかタウロスは
地面に落ちていた石を思いっきり踏みつけた。
グシャ!
タウロスの踏みつけた石は砕かれた。
アンシェリークの表情が厳しくなった。
・・・普通の力じゃない
「あたしが何しようと勝手だろ!」
「農国シルクスへの領土侵入だ。自分の国に戻れ」
「いやだよ。なんなんだよ。この前はムキムキの女に追い掛け回されたし。
ここは野菜は美味いが、いる奴がイヤなやつばっかりだな。」
「帰らなければ力づくで押し返すまで」
アンシェリークは刀を抜き、構えた。
タウロスは刃物に反応したのか激怒した。
「危険!危険!お前危険!
この前のムキムキ女の分まで一緒にぼこぼこにしてやる!」
タウロスはアンシェリークに向けて叫んで飛び掛かった。
決着
タウロスは野生の動きでアンシェリークに突っ込んだ。
アンシェリークはタウロスの攻撃を剣で防御した。
剣が接触した瞬間、アンシェリークは危機感を感じた。
人間のものではないほどの威力を感じたからだ。
「こ、これは・・・」
「ぶっとべぇ!」
タウロスの渾身の一撃はアンシェリークの体を吹き飛ばした。
「がああああっ!」
ずしーん。
アンシェリークの体は地面を数回バンドしながら
森の大木に強く打ち付けられた。
「ばーか!」
タウロスは大きく叫んだ。
その言葉に呼応するように
アンシェリークはその場でものすごい勢いで飛び上がり
体勢を立て直した。
アンシェリークの額に血が流れている。
「・・・すごい力だ・・・」
「なんだよ!倒れてないのかよ!倒れろよ!」
タウロスは野次のようにアンシェリークに言葉を投げつける。
アンシェリークはそんなことを無視するかのように剣を振り回す。
「反撃させてもらう・・・」
アンシェリークは素早い動きでタウロスに接近した。
「え?消えた?」
タウロスがあたりをキョロキョロしていると、
アンシェリークはタウロスの下方に姿を現し、
剣で鋭く切りつけた!
「ぎゃあああああ!」
タウロスはアンシェリークの鼓膜が破れんばかりに叫んだ。
「痛い痛い痛い!痛ーーーーーい!!!!!わぁ~~!」
タウロスの大声でアンシェリークは少し怯んだ。
タウロスのマントから爬虫類のしっぽのようなものが出現し、
アンシェリークの首を絞めつけた。
アンシェリークは完全に油断していた。
「なっ・・・がっ・・・おおおっ・・・」
アンシェリークの首にタウロスのしっぽが巻き付いた。
「よくも刺したな!深く!ムカつく!」
タウロスはアンシェリークの胴体に素手で強力な殴打を繰り出した。
アンシェリークの胴体にめり込む。
「がはっ・・・あ・・・あ・・・あ・・・」
アンシェリークが嘔吐せんばかりに悶絶していると
「これもオマケだ!」
タウロスはしっぽに力を込めた。
「があああああ・・・あああ・・ああ・」
アンシェリークは朦朧としている。
「このまま絞めてやる!!!」
「あ・・・あ・・・あ・・」
朦朧とした意識の中、アンシェリークは剣を振り上げ
タウロスのしっぽをしたから剣で突き上げ貫通させた。
「ぎゃああああああああ!ぎゃあああああ!うわあああああ!」
またまたタウロスは絶叫した。
堪らずタウロスはアンシェリークのしっぽを外した。
アンシェリークは大急ぎで距離を取った。
「あ・・・が・・・はあっ・・・・はあっ・・・・」
アンシェリークは首を押さえている。
タウロスはしっぽを心配そうに見つめている。
「・・・うああああ!ムカつくムカつくムカつく!
絶対に捕獲してやる!」
タウロスは激怒で我を忘れている。
「しまったな・・・油断した」
アンシェリークは苦悶の表情を浮かべ、ため息をついた。
◆ ◆ ◆
アンシェリークは慎重に距離を取りながら戦っているが
タウロスの人間離れした攻撃力とスタミナに驚いていた。
「な、なんて奴だ・・・アームストン大公の私が押されている・・・?」
「ぜぇっ!ぜえっ!疲れる・・・もう帰りたい」
タウロスは弱音を吐いたがアンシェリークは満身創痍だ。
「上様にまた怒られそう・・・」
タウロスの言葉にアンシェリークは反応した。
「上様?・・・お前は単独じゃないのか?」
「うるさい!お前に関係ない!」
タウロスはまたアンシェリークをめがけて突進していった。
アンシェリークは最初に受けたダメージを引きずっており、
タウロスの攻撃を避けるので精いっぱいだった。
タウロスの攻撃は一撃必殺級の威力があるため、
ダメージを受けるわけにはいかない。
しばらく時間が経つとアンシェリークの体力が尽きてきた。
タウロスの攻撃を剣で受けるだけで
吹き飛ばされることが多くなってきた。
「く、くそ・・・足が・・・」
「全く・・・なんなんだよ。なんでこんな強い奴がゴロゴロいるんだよ」
タウロスは不満を口にした。
「でも今回は私が勝ちそう!」
タウロスは再度、全力の力を絞り気合をためた。
その様子を見てアンシェリークは弱音を口にした。
「まずいな・・・」
アンシェリークはもう一度立ち上がった。
タウロスがアンシェリークに突進した。
タウロスの激しい攻防をアンシェリークは剣で防いだ。
「はああああああああああああああああ!」
「うらうらうらうらうら!」
しばらく丁々発止の応戦が続いたが、
タウロスのしっぽがアンシェリークに近づくとアンシェリークはしっぽのほうに剣を向けた。
瞬間的にアンシェリークの守りが薄くなった。
「今だ!」
タウロスの猛攻撃がアンシェリークを襲う。
「ああああああああああああ!あっ、あっ、ぐわあああああああああああああ!」
アンシェリークの全身にタウロスの強靭な斬撃が撃ち込まれる。
アンシェリークは防御に手が回らず打撃を受け続けた。
「ああああああああああああああああっ!いやっ!あっ!がはっ!」
アンシェリークはその場に仰向けに大の字で倒れた。
「・・・負けちゃった」
アンシェリークはボソッと口にした。満足な表情を浮かべている。
「はぁ・・・はぁ・・・やった」
タウロスは満足そうに倒れたアンシェリークを見下ろした。
まるで獲物を捕まえた野獣のようだ。
「こいつ美味いかな・・・?上様に持っていこうかな」
・・・
・・・
・・・
タウロスの表情が険しくなった。
素早くアンシェリークから目を反らし横を見た。
「・・・?」
仰向けのアンシェリークはうつらな瞳でタウロスを見上げている。
「あ・・・あ・・・」
タウロスがなぜかうろたえている。
「ごらぁ!角女!またノシアスの畑荒らしてんのか!」
その場に女の怒声が響き渡った。
「ぎゃああああっ!ムキムキ女!・・・や、やばいぃ~!」
タウロスは大急ぎで背中を向けて走り始めた。
「こらぁ~待てや!」
ムキムキ女はタウロスを追っかけたが
全力で逃げるタウロスは川に飛び込んだ。
「ちっ・・・濡れるのは嫌だな・・・」
ムキムキ女は一言文句を口にすると、
どすどすアンシェリークのほうに近づいてきた。
「よう」
「・・・あなたは?」
アンシェリークは仰向けに横たわりながらムキムキ女に聞いた。
「あたしはシグネだよ」
◆ ◆ ◆