導入
バーラ・リンドフスキー率いる小隊は
軍国アストマ中部にある廃墟に陣地を移していた。
その陣地から離れた場所でバーラは一人で修行をしていた。
空中に無心で剣を振り回すバーラは何かを振り切るかのようだった。
以前、戦いの中でガルガンティス天帝国の天位十将軍"朱雀"キルスティに
言われた言葉を何度も頭の中で反芻していた。
—貴様は国のためではなく私ともう一度戦うために生かされている。
次戦うときはくだらない雑念無く剣を振れるようにしておけ—
「・・・私の生きる意味・・・」
バーラは訓練を切り上げ小隊の場所に戻っていった。
◆ ◆ ◆
陣地に戻る途中バーラは倒れている自分の部下を見つけた。
その先にもバーラの小隊の何人かが倒れている。
どうやら何かに追われていたようだ。
「おい!どうした!何があった?」
バーラは倒れている部下に声をかけた。
「ば・・・バーラ様・・・アデレイドが」
バーラは一瞬にして状況を把握した。
「アデレイド・・・」
アデレイドはアストマで行動する各部隊に
自らが王になる趣旨の宣誓文を送り付けた。
バーラもその声明を聞いておりアデレイドの野心を警戒していた。
バーラは力尽きた部下を抱きかかえながら目をつぶった。
その時、鈍い軍靴の足跡が聞こえてきた。
「進撃隊隊長バーラ・リンドフスキーを確認。状況をコピー。」
声が聞こえる方向にバーラが見やると、
軍服姿の長身の女が仁王立ちしていた。
その背後には気を失ったバーラの部下を引きづっている軍服姿の女の部下が数人がいる。
「!お、お前たち・・・貴様ら・・・」
軍服姿の女は口を開いた。
「自分は急襲隊アデレイド様の副官マグダ・カルデナスである。
貴殿をバーラ・リンドフスキーと確認した。
アデレイド様からの命により貴殿に進撃隊の解隊と降服を要求する。」
マグダは燃えるような眼光でバーラに言い放った。
それは要求というよりもまるで命令のような威圧を放っていた。
バーラはマグダを鋭く睨みつけた。
「急襲隊の構成員の分際で・・・進撃隊隊長の私に指図するのか」
マグダは無表情で言い放つ。
「アデレイド様と貴殿がライバルなどと言われていた時代は過去のもの。
アデレイド様はこの国を統一すると決意されたり。
そしてほかの部隊の制圧を自分に任された次第。
したがい解隊と降伏の上、貴殿の身柄をアデレイド様に連行する。」
バーラは静かに叫んだ
「ふざけるな三下!私は進撃隊隊長バーラ・リンドフスキー!
その辺の騎士に負けるような女ではない!」
バーラは股を軽く開き腰を落とし足元に力を入れた。
バーラの気迫があたりの空気を切り裂いた。
マグダは無表情のまま右手を垂直に上げた。
その瞬間、マグダの背後に立っていた二人が手に持っていたバーラの部下を地面に投げ捨てると同時に、
地面を蹴りつけ剣を光らせバーラのほうへ走っていった。
「捕る!」
マグダの部下は剣を振り回しバーラに襲い掛かった。
「・・・」
バーラは無表情で上に飛び上がった。
「くっ!上か!バカめ!串刺しだ!」
マグダの部下はバーラの姿を追って見上げた。
ちょうど太陽の日差しが垂直に差し込んだ。
「くっ」
マグダの部下は目が眩んだ。
「はあああああああっ!!!」
瞬時にバーラはマグダの部下の背後に移動し、
背中目掛けて強力な斬撃を繰り出した。
「があっ・・・!」
「あぁああっ!」
ズゴーン・・・
マグダの部下は廃墟のがれきに突っ込んだ。
バーラは直立不動のまま顔だけマグダのほうに向けた。
「雑魚に用はない。私を止めたければお前が来い。」
バーラの表情は怒りに満ちている。
マグダは無表情のまま口だけ動かす。
「貴殿の実力に偽りなし。状況をコピー。
もとより自分以外に貴殿を制圧する計画は存在しない。
想定内の状況である。」
バーラは長刀を目に見えないほどのスピードで振り回した。
あたり一面に砂埃が舞う。
「これよりマグダ、
アデレイド様の命により進撃隊の解隊と隊長バーラ・リンドフスキーの制圧を開始する」
「やれるものならやってみろ・・・」
バーラとマグダは剣を構え体制を整えた。
決着
マグダとバーラはしばらく睨みあっていた。
バーラは仁王立ちのまま微動だにしない。
「なるほど・・・直立不動であってもスキがない。
相対するだけで実力者と認識。
さすがアデレイド様とかつてライバルと呼ばれた女・・・」
マグダは手のひらで長いナイフを空に投げお手玉のように扱い始めた。
「まずは様子見と行こうか。」
マグダはナイフを何本もバーラに向けて投げつけた。
そのナイフと同じスピードで自らもバーラに突進した。
「!早い」
ナイフを叩き落とすバーラの懐にマグダが瞬時に潜り込んだ。
「行くぞ」
マグダはマントに隠し持っていた大刀を下から一気にバーラの顔めがけて振り上げた。
「くっ!」
マグダの一撃とバーラの下からの抑え込んだ防御の衝突は辺り一面の砂埃を巻き起した。
「っく・・・」
「ぬう、いい感触だ。」
ぐぐぐぐ・・・
マグダはバーラとの硬直状態のまま地面に落ちていたナイフの一本を足で垂直に蹴り上げた。
「ちっ!」
バーラの頬をナイフが掠めた。
「力が抜けた・・・逝け」
「しまっ・・・」
マグダはバーラの剣を弾き上げると同時にバーラの胴体に強力な一撃を送り込んだ。
「がはっ・・・・ああああっ・・・」
バーラは岩山に打ち付けられてその場に崩れ落ちた。
マグダは無表情のまま背中を向けた。
「任務完了・・・あっけなかったな。部下に連行させる。」
マグダは目をつむり歩き始めた。
その瞬間、巨大な岩がマグダの背中に当たった。
「がは・・・くっ・・・」
一瞬よろけながらマグダは振り返った。
ダメージを受けたバーラが見下したように笑っている。
「ふっ・・・勝負の見切りもできない三下では私に勝てない・・・」
「貴様・・・」
◆ ◆ ◆
バーラとマグダの攻防は一進一退で続いていた。
マグダの戦法は地面に落ちている無数のナイフを自由自在に蹴り上げ、
手に持った大刀とのコンビネーションで攻めるものだった。
しかし一方のバーラは剣一本で戦う正統法なものであり、
両者の戦い方は全く異なるものだった。
お互いの姿は満身創痍の様相を呈している。
「はあ・・・はあ・・・進撃隊バーラ・リンドフスキー。
噂どおりの強者・・・。しかしアデレイド様には遠く及ばない。
軍国アストマの王になられるアデレイド様の野望のために
ここで仕留めさせてもらう。」
「野望か・・・」
「なんだ」
「いや、久しく忘れていたな」
「なんだと?」
「少し前に言われたのさ」
「?」
「何のために戦うのかって」
「何を言っている?」
「王か・・・わかりやすくていい」
「なんだと?」
バーラは地面から上がってくるナイフをそのまま素手でつかんだ。
「な・・・片手で・・・?」
バーラはマグダの大刀を左手でつかみ、
マグダの蹴り上げたナイフを確実に右手でつかんでいた。
「私も目指してみるか・・・」
「ふ、ふざけるな!」
マグダが大刀を目にも見えないほどのスピードで振り回すが
バーラはすべて間一髪で避ける。
地面から飛んでくるナイフも当たらない。
まるで動きが別人のようだ。
「な、なんだ・・・さっきまでとは動きが」
バーラは笑った。
「アデレイドに先を行かれたかもしれない。
どれだけ追いつけるか走ってみるか」
バーラはマグダの背中に回り込みマグダが振り返ると今度は正面に回る、を繰り返した。
「くそぉ!」
マグダがバーラの残像に大きく振りかぶった瞬間、
バーラのオーラが爆発した。
「はあああああああ!!!!!」
バーラはマグダの巨体に目掛けて何度も剣を振り下ろした。
「がっ・・・これしき・・・ああああああっ・・・がああああああああああああっ!!!」
バーラは攻撃をやめない。
「さらにスピード上げるよ・・・」
「ぬあああああああああああああああああああああっ!!!・・・かっ」
マグダはその場に倒れた。
マグダはゆっくりとやっとのことで上半身だけ起こした。
「な・・・なぜこんな力が・・・これだけの力があれば・・・
あ、アデレイド様・・・・」
バーラは真剣な表情でマグダに言い放った。
「アデレイドに伝言を頼む。」
マグダは驚いた表情から戻れない。
「私も王を目指す」