導入
ノシアス共和国軍事院のユーディットとレーベッカが
アームストンとの国境付近に向けて
移動を続けて2週間がたった。
しばらく国境付近で滞在し、負傷したジモーネの情報を入手していた。
どうやらジモーネはあとからやってきた友人の
フルヴィアにより介抱されており無事なようだ。
フルヴィアによると
「ジモーネのことは私に任せてください。貴方たちは
さらなるアームストン大公の動向に注意してください。」
とのことだ。
レーベッカとユーディットはしばらく待機することにした。
ある日、
レーベッカが山賊による襲撃があるとの報告を受け、
北方に制圧に出かけた。
ユーディットはノシアス国の関所にある待機所にて
一人トレーニングをしていた。
「まったくレーベッカめ。僕を一人にして・・・」
文句を言っていると外が騒がしくなった。
「これはこれは大公様!」
「ティアナ様がいらっしゃった!」
「は~いはい。いらっしゃったわよ~!
あら~あなたかわいいわねぇ~。この後一緒にご飯どう?」
そんな会話が聞こえてきた。
ユーディットはトレーニングを止め、
真剣な顔つきで外に出ていった。
ユーディットが外に出ると、
ティアナの一行が関所の防人と何やら会話をしており、
その隣に馬車が用意されていた。
ティアナは少し驚いてユーディットのほうを見た。
「あら・・・貴方は」
「僕を知らないのか?僕はノシアス軍事院のユーディットだ。」
「・・・ごめんなさ~い。外交上あまりお付き合いがないのよね。」
「ふん・・・何をしに来た?」
「何って・・・あなたのところの民事院マーラに呼ばれたのよ?」
「ふん・・・だろうね」
「それで?」
「悪いけど帰ってもらうよ。」
「ええ~どうして?」
「僕ら軍事院はアームストンとの国交は認めていない。
僕ら的には領土侵入だよ。おばさん。」
「・・・ひどーい。こっちは呼ばれてきたのに。」
「僕らの同僚のジモーネはおたくらのマオって大公に
襲撃を受けたんだぞ」
「え?そうなの?・・・まあアイツは野蛮だから。
私は違うわよ?ティアナちゃんは!」
「ウザい。」
「ひどい!・・・よく見ると・・・君かわいいね」
「なっ・・・なんだと!僕を侮辱するなバカ!」
「本当よ。君かわいい!すごい肉体だけど顔かわいい!」
「ふっふざけるな!僕は軍人だぞ!そんな言葉で喜ぶと思うなアホ!」
「顔赤いけど・・・そういうところもかわいいなぁ」
「なっ、なめるなよ!良いから帰れブス女!」
「・・・悪いけど君の一存で帰るわけにはいかないのよねぇ。」
「ふん。ボロボロにされないとわからないのか?雑魚め」
「・・・ふーん。・・・僕ぅ・・・調子に乗るなよ・・・」
ティアナの眼が殺意で歪むとユーディットはビクっとした。
「ふん・・・正体を現しやがったな」
「私は誰にも優しいティアナさん・・・
さんざん罵詈雑言されても笑い飛ばす大らかな大公・・・。
でもな、世間を知らないガキには理を説いてやるのが大人の務めだろうよ。なあ?」
ティアナの太ももが激しく膨れ上がった。
レザージャケットがパンパンにはち切れそうになっている。
「ふん・・・僕も手加減はしないぞ。」
ユーディットの肉体が膨れ上がたった。
「来なよ僕ぅ・・・。忘れられないトラウマを植え付けてあげるからさ」
「ほざけ!」
決着
ユーディットは握りこぶしを作り低くかがむと力をためた。
一回りユーディットの体が大きくなった。
「あら・・・せっかく可愛いのに。さらにゴツくなるの?」
「うるさい。光栄に思え!最初から本気を出してやるんだ」
「へーそう。じゃあ私も手加減しないぞ。」
ティアナは幼子を見るような目つきでユーディットを見つめた。
「その眼・・・気に食わないな。後悔させてやる!」
ユーディットは地面を蹴りつけると懐から大きな剣を取り出し、
ティアナにとびかかった。
太ももの筋肉が弾けるゴムのように伸縮し速度を加えた。
「わっ」
ティアナはあまりのスピードに驚き慌てて剣を取り出した。
しばらく剣と剣の交わる音があたりに響いた。
「ふん!やはり大したことないな!アームストン!」
ユーディットの鋭い刃がティアナのジャケットを切り裂く。
「くっ・・・やっ・・・いやっ・・・」
ティアナは防ぎきれないユーディットの攻撃に苦しめられる。
「くそっ!」
ティアナは慌ててユーディットから距離をとった。
「はあっ・・・はあっ・・・すごい動きだね。あとすごい剣技・・・。」
「ふん・・・言っただろ。お前は僕の相手じゃないって」
ティアナはにやっと笑った。
「そうかな?私全然自分が勝てると思ってるんだけど!」
ユーディットはイラっとした表情を見せた。
「ふん。強がりだな。僕とお前の実力の違いがもうわかっただろ・・・。
止めを刺してやる。レーベッカ君が戻ってくるまでもなかったな。」
「だぁれ?レーベッカ君って?」
「ふん。これからやられるお前には関係ないよ」
「可愛い顔して意地悪だね君」
「ふ、ふざけるな!そんなこと言って油断するか!」
「・・・油断って・・・本当は嬉しいのかな?」
◆ ◆ ◆
ユーディットの攻撃はますます勢いを増してきた。
ユーディットの強みは無尽蔵のスタミナ。
長時間経ってもユーディットの動きは衰えない。
ティアナもダメージこそ受けているように見えるが懸命に対抗していた。
「ふん。まだまだ!アームストンの大公でも僕に勝てない!」
ユーディットの攻撃は止まらない。
突きの一撃がティアナを捉えた。
「うあっ・・・」
ユーディットの剣がティアナの上腕を切り裂いた。
ティアナの顔が苦痛に歪む。
その様子を見てユーディットは勝ちを確信した。
「ははは!終わりだ!アームストン!」
・・・
ゴッ
・・・
次の瞬間、ユーディットがその場に倒れた。
ティアナが体勢を立て直し自分の上腕を押さえて止血している。
ユーディットがふらふらと立ち上がったが
その場にまたへたり込んだ。
「な・・・なにが・・・あ・・・ああ・・・」
ユーディットの意識は朦朧としている。
ティアナがゆっくりと話し始めた。
「油断・・・思い込み・・・それが君の敗因・・・」
ティアナは持っていた剣を捨てた。
からんからんと乾いた音を立てた。
「君は・・・私のことを剣士だと思ってたでしょ・・・。
だから私の剣ばかり見てた。
本当は私、こんなもの要らないの」
ユーディットの視点はまだ合わない。
ティアナがユーディットの前に立ち手を伸ばす。
「あ・・・そ・・・ああ・・・」
ユーディットはまだ呂律が回らない。
そっとティアナはユーディットの顎を持ちあげて自分の顔に向けた。
「あ・・・ああ・・・」
「うふ。かわいい。・・・君はね・・・
私の渾身の蹴りを側頭部に受けたの。
三半規管が壊れるぐらいに。
しばらくは動けないよ。私の勝ち。」
ティアナは手を離し少し距離を取ってから構えて蹴りを放った。
ズウォン…
ティアナの蹴りは砂埃を巻き込んで低くて鈍い音を放った。
「これを無防備にうけたら死んじゃうよね♡
君はやっぱり強いよ。でも・・・実践不足かな?」
ティアナはユーディットの前にかがみユーディットに抱き着いた。
「君可愛いからこれで許してあげる。」
「は・・・離れろ・・・」
ユーディットは何とか声を出したがティアナはユーディットの顔を両手で掴み覗き込んだ。
「いい?私はおばさんじゃないし、雑魚じゃないし、ブスじゃない!」
ユーディットは無言で頷いた。
ティアナはニッコリと笑った。
ちょうどその時、
「ティアナ様!ノシアス民事院の迎えが到着しました!」
その言葉を聞いてティアナはユーディットから離れ声をかけた。
「ユーディット君またね!」