導入
リハーナイン王国 北部の街コーレル
「おいしい〜」
街の外れのレストランでマリーはテーブルいっぱいに
用意された食事を次々と完食していった。
「よく食べる騎士様だ・・・」
店のオーナー、店員、他の客も呆気に取られて見ている。
「すみませんおかわり〜」
大きなプレートを勲章を掲げるが如く持ち上げた。
テーブルの上には積み上げられた空の食器。
彼女は欲している。追加のポークポトフを。
店の食材がなくなるのではないかと思われるぐらい
食べ続けたあと彼女は会計を済ませて店を後にした。
「あああ〜美味しかったなあ〜
なんていうのかな〜おいしい、
うん、おいしい!」
同じことを何回も言いながらコーレルの街を探索していた。
「どこいっちゃったのかな〜。
夜前ご飯は一緒に食べたいのに〜」
マリーはぽてぽて歩いていると目の前から背の高い女性が歩いてきた。
「わあ〜。身長高い人だな〜」
と呟いていたら
その背の高い女性がマリーに近づいてきた。
「ほえ」
「こんにちは」
その女性はニコリと笑いマリーに話しかけた。
「リハーナインの騎士様かしら」
「はぁい」
「いつもご活躍を拝見していますの」
「ふぇ?ふぇ?ふぇ?そうなんですか?」
「ええ」
女性はまたニコりと笑った。
「うわぁ〜嬉しいなぁ〜
騎士やってて初めてだょぉ〜」
マリーはドスンドスン飛び跳ねて喜んだ。
「騎士様一人?」
「仲間もこの街にいるよ!」
「そうですか。・・・私・・・以前、
リハーナインの騎士様の雄姿を見たことがありますの。
それが・・・忘れられないの。
真っ白な髪の毛、そして隆々とした肉体、
そしてどこまでも澄んだ青い眼・・・」
女性はすこし悲しそうな眼を下に向けた。
マリーはその様子をじーっと見ていた。
そして無意識のうちにぽつりと呟いた・・・。
「・・・・・・・・・ウラちゃん?」
その瞬間空気が凍りついた。
マリーは心の底が凍りつくのを感じた。
しばらくして女性は顔を上げて満面の笑顔を見せた。
「ええ!ええ!その騎士様です!
わたしがお慕いしている騎士様!ぜひ会ってみたいわ。」
・・・
ねえ
・・・
いいですよね?
騎士様
・・・
・・・
・・・
マリーは生唾を飲んで背中の冷や汗を感じた。
マリーの記憶の池に水滴が落ちた。
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「私は・・・もし彼女が生きていると思うと恐ろしい・・・
彼女が生きていると思うと・・・私を探していると想像すると・・・
それだけで・・・ここにいてはいけないのではないかと。
マリーさんも、フィオ隊長も・・・姫様にも・・・
ご迷惑をかけてしまうのではないかと。
この平和な国が私のせいで・・・」
「ちょ、ちょっと・・・いいよウラちゃん!嫌なことは考えなくても・・・」
ウラは小刻みに震えながら汗をかいている。
「マリーさん・・・私はここにいてもいいのでしょうか」
「いい!いいよ!いていいに決まってるよ!
・・・ごめんね。変なこと聞いちゃって」
「私が悪いんです。すみません・・・。」
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まさか・・・
この人が・・・
マリーは突然怖くなった。
しかし振り切って言葉を絞り出した。
「・・・ダメ!!!!!」
・・・
・・・
・・・
「どうして?」
女の顔が真っ白になり、生気が消えた。
「あ、あなたが誰かわからないし絶対に会わせない!」
・・・
・・・
どさっ
その時マリーと女性の隣を横切ろうとした町民が突然その場に倒れた。
キャアアアアアアア
町中に悲鳴が反響した。
「な・・・」
女性の手に剣が握りしめられており、血が流れている。
「作戦変更。あなたを人質にしてウラを連れ戻す。」
「やっぱり・・・あなたが・・・無関係な人を・・・」
「ウラに会わせなさい。今なら命はとらないわ」
マリーは震えながらも大きな声で言い放った。
「絶対に嫌!ウラちゃんは友達だもん!!!」
その言葉に女性は苛ついた表情を浮かべて歯軋りをした。
「・・・ふふふ待っててねウラ。エラ姉さんが迎えに行くからね・・・」
エラはその手で剣についた血をふき取った。
決着
マリーはエラ目掛けてどすどすと走っていった。
「ウラちゃんには会わせない!帰れぇ~」
エラはギラギラした視線で獲物を狩るように睨んでいる。
「ふふ・・・動きがまるで素人・・・たるみ切った
体じゃその程度でしょうね・・・」
エラは地面を強く蹴った。
「え?消えた?」
マリーは一瞬エラの姿を見失ったが
大きな盾を左に構えた。
ちょうどそこにエラの攻撃が当たった。
ガキン
「あら?防がれた?終わりだと思ったのに」
エラは余裕を含んだ悪魔のような笑みを浮かべた。
「うう・・・怖いかも」
マリーは弱音を吐いた。
エラはその言葉が聞こえたのか小さく笑った。
「ふふ・・・心配しなくてもいいわよ?
すぐ終わるから・・・痛いのもちょっとだけよ」
マリーはちょっと涙ぐみながら剣と盾を構えた。
「じゃあ・・・さよなら♡」
エラはまた一瞬にして動きを消した。
マリーはまた怖くなった。
「うわぁぁ!」
マリーは今度は右斜め上に盾を伸ばした。
ちょうどそこにエラの攻撃が当たった。
ガキン
「え?」
エラは不思議そうな顔をした。
「チャ、チャッ、チャ、チャンス!」
マリーは大きく剣を振りかぶった。
エラは不意を突かれた。
「くっ!」
エラは剣でマリーの剣を受け止めたが
体重のかかるマリーの全力の振りかぶりが
エラの体を跳ね飛ばした。
「ぐっ」
がしゃーん
エラの体は小屋の前にあった材木に突っ込んだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
マリーは息を切らしている。
エラはゆっくりと立ち上がった。
「・・・何故?」
エラは納得いかない表情を浮かべた。
「こんな動きの遅い奴になぜ私の動きが見切れるのかしら・・・」
「うう・・・やっぱり怖い」
マリーは情けない声を出した。
エラはもう一度俊足でマリーに襲い掛かった。
「ひえっ」
マリーは今度は怖がりながら剣をエラに向けて振るった。
エラはその剣をなんなく飛び上がり上空からマリー向けて刺そうとした。
マリーは目をつぶりながらその方向に盾を向けている。
ガキン
エラは距離を取って怒りの表情を浮かべ歯ぎしりをした。
「何故!何故何故何故!あなたなんかに私の攻撃が見切れるの!
あなたには私の姿すら見えていないはず!」
マリーは恐る恐る答える。
「こ、怖い方向に盾を向けているんだよ!帰れ!」
エラはぽかんとした。
「は?・・・それだけ?」
「そうだよ!」
◆ ◆ ◆
しばらくエラの攻撃をマリーは盾で防いでいたが
だんだんと疲れてきたのか
動きが鈍くなりエラの素早い攻撃を防げなくなってきた。
エラもマリーの圧倒的なカウンター能力に苦戦し、
マリーの体重に任せた攻撃を何発も被弾した。
「くっ・・・なんて屈辱・・・こんな奴に」
「ぜぇっ・・・ぜぇっ・・・帰れ!・・・お腹すいた・・・まだまだ」
マリーの顔は朦朧としている。
エラはまたマリー目掛けて素早い動きで攻撃を仕掛けた。
マリーは必死にその攻撃を盾で防ぐ。
「何故邪魔するの!姉と妹が会うのは必然!
あなたのような他人には関係ないでしょ!」
「た、他人じゃない!友達だもん!」
エラはその言葉にイライラし、なんども執拗に突きを繰り出す。
「うるさい!友達なら姉妹の再開を邪魔しない!
お前は邪魔だ!」
「くっ・・・くっ・・・やあっ・・・」
無数の付き攻撃を防いでいたが、腹が減って力尽きた。
「お、お腹が・・・減ったぁ」
エラの突きの一撃がマリーの足の付け根部分を深く突き刺した。
「あああっ・・・」
マリーはたまらずその場に膝をついた。
その様子を見てエラは悪魔のように笑った。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ふふ・・・
勝負はあったわね・・・その足じゃもう私の攻撃は防げないわよ」
「うう・・・痛いよぉ~」
マリーは刺された個所を手で押さえている。
「さあ・・・ウラの場所に連れていきなさい・・・
命だけは考えてあげてもいいわよ・・・」
マリーは傷を流れる血を広げながらさすっている。
「ウラはあなた達とは一緒にいられない存在・・・
あの子は昔から私と一緒に行動を共にしてきたのよ・・・」
マリーは黙って聞いている。
「ウラの強さは私が一番よく知っているわ。
私がお願いをすれば・・・どんなことでもやってくれたわ。
盗み、誘拐、組織の壊滅・・・残虐なこと、どんな悪いこともね・・・」
「・・・どんなことでも?」
マリーは聞き返した。
「ええ・・・そう。ウラは姉さんのためなら、と言ってくれたわ。
わかる?これが姉妹の絆なのよ?
・・・だからあなたのような他人には立ち入ることのできない世界。」
マリーはゆっくりと震える太ももを抑えながら立ち上がった。
血が流れ体はよろよろしている。
「あら?そのまま座っておけば止めを刺してあげるわよ?」
マリーはゆっくりと話はじめた。
「私はウラちゃんのことは知らない」
エラは無表情のまま口を開いた。
「そうね」
マリーは続ける。
「でも友達の気持ちはわかる」
エラの眉間に皴が寄った。
「ウラちゃんは私や国や姫様に迷惑がかかるのが申し訳ないと言った。小さく怯えてた。
あんなに強いウラちゃんなのに。筋肉ムキムキで戦うと止まらなくなるのに。」
マリーはエラを睨んだ。
「ウラちゃんが怯えていたのはあなたにじゃない!
あなたに"嫌なことをさせられる"ことに怯えているんだ!」
エラの表情が怒りでゆがんでいる。
「ウラちゃんはあなたのために一生懸命"嫌なこと"をやってきた!
やりたくないのに!だから!壊れる前にあなたから逃げ出したんだ!
ウラちゃんの過去なんて知らない!だけど!
ウラちゃんがどんな性格かわかってる!
私なんかよりもよっぽどしっかりして!
みんなのために働いて!
みんなのために優しくなれる!
あんたなんかとは違う!絶対に会わせたくない!」
エラは激高した。
「黙れ!・・・黙れ黙れ!昨日今日知り合った分際で・・・。
友達?厚かましいにもほどがあるわ・・・。
私たちがどんな環境で生きてきたかも知らないくせに。
・・・もういいわ。さっさとあなたを殺してウラを連れ戻しに行く」
マリーは鼻息を荒く噴き出し、甲冑の中に手を入れた。
ゴソゴソと懐からぺちゃんこのパンを取り出し頬張った。
大急ぎで食べる。水なし。
「ングッ・・・ングッ・・・よし!」
マリーはまた剣と盾を持ち構えた。
「まだ戦える・・・絶対にウラちゃんに会わせない!帰れ!」
マリーの足の付け根からは血が流れている。
エラは死神のような顔色でマリーを見つめる。
「調子に乗らないで頂戴・・・すぐに殺してあげるわ・・・」
その時、二人の後ろから足音が聞こえてきた。