導入
エバロン王国に到着したマイア・ルシュールは
エバロン城の門番の案内を受けて
城内にいる最上位士官のリシュエンヌに案内された。
すでに陽は落ちていて辺りには暗がりが広がっていた。
リシュエンヌまで通されている間、
王宮の廊下にて上位士官のエスペランサに声をかけられた。
「マイア殿。はるばるご苦労だったな。
私はエスペランサだ。久しぶりだな。覚えているか」
マイアはエスペランサを見据えてニヤリと笑った。
「忘れるわけないだろう。普段から会う仲ではないが付き合いは長い。
先日は伝書を送ってもらって悪かったな。」
エスペランサは真剣な顔つきをすると小さく頭を下げた。
「先日のエバロン、グレゴリスの合同訓練について・・・
申し訳なかったと思う。私も上位士官として訓練に参加していた。
そちらのエステラ殿が危険な目にあったのは
我々の"元上位将官"ミュリエルによるもの。
奴は我々を裏切りエステラ殿を手にかけ盗難を働き国外に逃亡した。」
マイアは目を細めて壁のほうに目をやりながら言った。
「なに、気になどしていない。現にエステラの傷は次第に癒えてきて、
奴は自分の体を痛めつけるような修行をしている。
それに奴も騎士だ。万が一のことなど覚悟の上のはずだ。」
エスペランサは前を向きなおすとマイアを見つめた。
「そして・・・我々のリシュエンヌも負傷した。」
マイアはエスペランサを見返した。
「ああ・・・私もそちらに興味がある。
久しぶりにリシュエンヌに会いたいと思ってな。」
「案内しよう」
◆ ◆ ◆
「入るぞ」
エスペランサは装飾の施された扉を開け放った。
扉の先の部屋は客室になっており
その先にはエバロンの城を見渡せるほどの
大きなバルコニーとなっていた。
「グレゴリス帝国の最高士官のマイア・ルシュール殿だ。
先日の件もあり訪城された。」
バルコニーの外を見ていたリシュエンヌは
エスペランサ達のほうを向いた。
「マイア殿。久しぶりですね・・・。
先日の合同訓練については合わす顔も紡ぐ言葉もない。
申し訳ないと思う。」
マイアは少し鼻息を鳴らして腰に手を当てた。
「ああ~いい、いい。エスペランサにも謝罪を受けた。
負傷したエステラの件についてもエステラに他意はない。
全て忘れて修行をしている。」
リシュエンヌは少し驚いた顔をした。
「そうですか・・・エステラ殿は・・・強いんですね。」
エスペランサは残念そうな顔をした。
マイアは眉を潜めて"はぁ?"と言わんばかりのしかめっ面をした、
が気を取り直して話を続けた。
「それで。ミュリエルという女の行方は?」
エスペランサが言葉を被せた。
「同盟国に指名手配はかけてある。目撃情報もあるがまだ決め手に欠ける。」
マイアはリシュエンヌを見据えた。
「捕まえてリシュエンヌに始末させたいよなぁ?エスペランサ」
リシュエンヌは少し驚いてマイアを見た。
「・・・私はミュリエルに負けたんだ」
「だから?」
「・・・」
マイアはリシュエンヌのほうに勢いよく歩いて行った。
「マイア殿!」
マイアは手の平を広げてエスペランサのほうに向けた。
「止めるなエスペランサ。」
エスペランサはその場に留まった。
マイアはリシュエンヌの目の前に立ち、接触せんばかりに顔を近づけた。
「おいリシュエンヌ。・・・なにを縮こまっている?
お前は私と同じステージだったはず。
武力、金、体・・・すべて利用し駆け上がってきた。」
「マイア・・・」
「剣を抜けリシュエンヌ。私がお前を試す。
ノーとは言わせない。エステラの件もある。
私も全盛期の私ではないが、鍛錬は怠っていない。
今のお前がどれぐらいのものか確認してやる。」
「ま、待て・・・私は・・・」
マイアは剣を勢いよく抜刀し横一線に振りぬいた。
「リシュエンヌ!」
エスペランサが叫んだが、マイアがまた手のひらを広げ制止した。
「言ったはずだぞ」
リシュエンヌはかろうじて後ろに飛んで避けた。
広いバルコニーの中央で着地すると体制を崩し片膝をついた。
衣装が鋭く切られ血が滲んでいる。
「マイア・・・貴様・・・」
リシュエンヌはマイアを睨んだ。
「・・・10年前の私が相手だと今のお前は真っ二つだな。
しかし10年前のお前だとそんな傷は受けなかった。
お互い腑抜けたな。」
マイアはさらに挑発するような表情を浮かべた。
「・・・そんなに嫌だったか?
部下だと思っていた人間に自分の"女"を弄ばれたことが?」
「マイア殿!それはあまりにも!」
リシュエンヌの周りに光の玉が集まり始めた。
リシュエンヌは刀を持ちマイアに向けて戦闘態勢をとった。
「エスペランサ!そこで見届けてくれ。
マイア・・・行くぞ・・・」
マイアは優しい笑みを浮かべながら剣を構えてバルコニーに飛び込んだ。
「まだ良い表情ができるじゃないか」
決着
マイアとリシュエンヌはしばらく睨み合いお互いの出方を伺っていた。
リシュエンヌの光靄があたり一面に広がり輝きを増した。
二人の戦いを見守っていたエスペランサは
リシュエンヌの輝きを確認すると軽く安堵の表情を見せた。
「行くぞマイア!」
リシュエンヌは光の軌跡を纏いながらマイアに接近した。
「威勢がいいな。リシュエンヌ」
マイアは前方のリシュエンヌを確認すると
下方から勢いよく剣を振り上げた。
リシュエンヌはマイアから放たれた剣を、
後ろにのけ反って躱したが、剣の風圧で髪の毛が大きく揺れた。
リシュエンヌは体を前屈みに丸めると同時に
足に瞬時に力を入れて弾丸のようにマイアめがけて自らの体を打ち込んだ。
「早いっ」
マイアはリシュエンヌの体当たりを飛びすさり距離を取ろうとしたが、
リシュエンヌの剣の先端がマイアの衣服を切り裂いた。
マイアは衣服の下から滲む傷を抑えて笑った。
「ふふふ。さっきのお返しをされてしまったな」
リシュエンヌは一息をついた。
「ふう…」
マイアは頭を押さえながら一人ごちた。
「ふん・・・割に合わない役回りだな・・・」
◆ ◆ ◆
マイアとリシュエンヌのすさまじい攻防は
お互いに一歩も譲らぬ斬撃戦を繰り広げた。
月夜の下、二人の騎士が見る見るうちにボロボロになっていく。
マイアもリシュエンヌも息が切れている。
「はっ・・・はっ・・・」
「はあ、はあ・・・」
エスペランサは無言でつばを飲み込んだ。
マイアは息を整えた後、リシュエンヌに向けて笑みを投げかけた。
「?」
リシュエンヌは異変を察知し剣を構え直した。
マイアは何も言わずに剣をリシュエンヌに直線に投げつけた。
「え?」
リシュエンヌは眼前に迫った剣を弾き落とした。
「なんだと?」
リシュエンヌは少し驚いた。
よく見るとマイアの剣はチェーンで繋がれており、
剣をまるで曲芸のように体の周囲に漂わせている。
「リシュエンヌ。エスペランサから聞いてる。
お前は視界を歪める奴に負けたようだな。
ならば私も変則的な攻撃をさせてもらおうか。」
マイアが両手に持っていた剣をリシュエンヌに投げつけた。
チェーンに繋がれた2本の刀がリシュエンヌに迫る。
「くっ。」
リシュエンヌはジャンプした。
マイアは腕を下に振った後に上に大きく振り上げた。
マイアの剣は地面にバウンドし、上空のリシュエンヌめがけて直角に立ち昇った。
「しまった。がああああっ!・・・ぐっ・・・」
マイアの剣はリシュエンヌの腰から胸元にかけて衣服ごと切り裂いた。
リシュエンヌは地面に落下した。立膝をついて胸元の傷を手で押さえた。
「私の剣の舞はどうかしら。リシュエンヌ」
マイアは自信気に笑いかけた。
リシュエンヌは真剣な顔つきになり、剣を両手で持ち中央に構えた。
「はあああ・・・・」
リシュエンヌの周りを漂っていた光靄がリシュエンヌの剣を覆った。
「面白い曲芸だな」
「マイア・・・私の技も受けてもらう」
リシュエンヌは光で包まれた剣を構えマイアに突進した。
「こい、リシュエンヌ」
リシュエンヌは光の剣を素早く振りまわした。
リシュエンヌから放たれた素振りから光の波のような閃光がいくつも飛び出した。
「?これは」
マイアは最初の一撃目に剣を振り、光の波がただの光の波であることを確認すると
二撃目からは光の波をそのまま体で受け止めた。
「まぶしいな!リシュエンヌ!それだけか」
リシュエンヌは光の剣でマイアに切りかかり、マイアはそれを剣で受け止めた。
リシュエンヌは少し後ろに下がり、また先ほどのように
いくつもの光の波を繰り出した。
マイアは先ほどと同じようにリシュエンヌの動きだけを見据えた。
「光の波は目くらまし!お前の動きだけ追ってさえいれば
光に惑わされるような私ではない!」
マイアはリシュエンヌの斬撃を受け止めた。
その時、光の波の一つがマイアの体を切り裂いた。
「ぐっ!な、なんだと」
そのスキをリシュエンヌは見逃さなかった。
リシュエンヌは自らに光を集め、光の玉となりマイアを取り込んだ。
「ぐっ・・・ああああああああっ!」
マイアは光の空間の中で全身に斬撃を受け、膝をついた。
「はあっ・・・はあっ・・・」
マイアはリシュエンヌを睨みつけた。
その後、優しい表情で見つめた。
リシュエンヌはその表情を見て同じように笑みを浮かべた。
マイアはエスペランサに対して声を上げた。
「エスペランサ・・・話が違うじゃないかぁ!」
エスペランサは目を細めて笑みを浮かべている。
「ぐちぐち拗ねてると聞いていたから様子を見に来たのに
まったくもって割が合わない・・・
私はこんなに体を張るステージじゃないんだぞ」
「マイア・・・ありがとう」
リシュエンヌはマイアに対して手を差し伸べた。
マイアはぺちんとリシュエンヌの手をはたいて立ち上がった。
「風呂は?」
「え?」
「汚れてしまった。風呂に入る。案内してくれ。
後、ボロボロになった私の正装はお前らに請求するからな。」
あと・・・私が膝をついたことは口外禁止だぞ。
特にうちの将軍たちには。
私はしょーもない弱みを握られるようなステージじゃないのだ」
「マイア・・・ありがとう」
「同じことばっかり言ってるなお前。しっかりしろ」
「あ、ああ・・・すまない」
「リシュエンヌ、一緒に風呂入るぞ」
マイアはリシュエンヌの手を引っ張り城の中に引きずり込んでいった。
エスペランサはマイアの後ろ姿に深々と頭を下げていた。