導入
軍国アストマ暗殺隊のジェマ・マクナイトは
遠征をおこなうために少数の部下を連れて城を離れていた。
ガルガンティスの皇女アリス・ガルガンティスを
捕獲してジェマ城に幽閉しているが、
ジェマにはガルガンティスとの情報ラインもなく、
結果捉えたアリスを有効活用することもできず、
しかもジェマ城で暴れるアリスに手を焼いていた。
(ジェマ様・・・いつまであの娘を拘束しておくつもりで?)
「まあ待て・・・。あれでもガルガンティスの皇女だぞ。
外交のルートでガルガンティスにゆすりをかけることもできよう」
(はあ・・・(外交ルートなんか持ってねーだろが))
「気に食わん顔だな。なんか言いたそうだな・・・」
(い、いえ・・・しかし・・・
あの娘には衛兵たちが手を焼いています・・・)
「普段から訓練が足らんからだ・・・あんな小娘に振り回されるなバカ」
(はあ・・・)
「まあいい。とりあえず城に戻ったら考える。
とりあえず我が暗殺隊の支配エリアの偵察に向かうぞ」
(はい)
◆ ◆ ◆
暗殺隊が支配をしている軍国アストマ北部の町イブールに
ジェマの一行が到着した。
住民もおらず暗殺隊のメンバーが支配をしているだけの
荒廃したエリアだ。
ジェマはイブールに入るなり違和感を感じた。
「なぜ出迎えが無いのだ?寝てるのか?」
ジェマが部下に問うと部下も首を傾げた。
(さあ・・・。伝書でジェマ様が向かうと連絡をしておりますが)
「まったく。なってないな・・・時間も守れんのか」
ジェマがあきれ顔で腕を組んでいると
近くの石造りの建物から大きな影がのそりと姿を現した。
「あの~お尋ねしたいんですが~」
その巨大な影はねっとりとした口調で話しかけてきた。
ジェマは姿を見るなり口にしていた。
「?クマか?」
その言葉が聞こえたのか聞こえないのか白い巨大な騎士が答えた。
「私はガルガンティス将軍のエデルガルドと言いますー。
白虎なんて呼ばれていますー。虎ですねー」
「ガルガンティス?」
口元が笑っているエデルガルドの目はジェマを見据えている。
ジェマは少し眉をひそめた。
「ここで何をしている?私の部下が居たはずだが」
「あー、ちょっと襲われたので眠らせていますー。
向こうの教会内の椅子の上に全員寝ていますー」
ジェマの表情が険しくなった。
「・・・何の用だ」
エデルガルドは笑顔のまま表情が変わらない。
「実はですねー。ガルガンティスの王族がアストマの国境沿いで
行方不明になっていましてー。知りませんかー。」
エデルガルドは気味の悪い笑顔を向けている。
ジェマは表情を一切変えずつっけんどんに言い返した。
「知らん。そんな奴は」
「そうなんですかー。それは残念です。
ものすごい破天荒でいい加減で子供っぽくて困っているんですよー。
勝手に出歩いちゃうし他人に迷惑をかけるし。
どこに行ってしまったのかー。
何か心当たりだけでもいいんですけどー」
「くどいな。そんな娘、私が知っているわけないだろ」
む・す・め
あたり一面の空気が変わった。
エデルガルドの瞳が青く怪しく光っている。
「・・・おかしいですねー。わたし王族としか言ってませんけどー。
不思議ですねー。」
「・・・そんな気がしただけだ」
「そうですかー・・・」
エデルガルドは大きな剣を構えなおした。
「私が探しているのはアリス・ガルガンティスという娘でしてねー。
アストマの国境沿いでいなくなりましてねー。
連れて帰らないといけないんですよー」
「・・・」
「知っていますねー?知っていますねー?
誘拐したのはあなたですかー?あなたですかー?
居場所教えてもらえますかー?教えてくれますかー?」
エデルガルドは満面の笑顔のままジェマに近づいていく。
「気持ちの悪い奴だ。その凶器のような顔は長く見るに堪えん」
ジェマは刀を抜いてエデルガルドを睨みつけた。
「残念ですー。私自分では淑女だと思っているんですけどー」
「言葉を覚えたばかりの野獣め。うわ言は鏡に言え」
「ひどいですー。怒りましたよー。
私が勝ったらアリスの居場所教えてもらいますよー」
「ほざけ!返り討ちにしてやる!」
決着
エデルガルドはゆらゆらと体を揺らしながら
ジェマに近づいていった。
「ふふふ~行きますよ~」
「ふん。さっさとこい獣が。」
「相変わらず口が悪いですね~~~では」
エデルガルドの巨体は
まるで瞬間移動したかのようにその場を離れて
ジェマとの距離を一瞬で詰めて突きを繰り出した。
「!」
ジェマはエデルガルドの気配を察知し、
素早い動きで距離を取り、エデルガルドの突きを避けた。
エデルガルドの突きの風圧でジェマの衣服が避けた。
「貴様・・・」
ジェマはエデルガルドを睨みつけ歯ぎしりした。
ジェマは体を少し左右に揺らし始めた。
「ん~嫌な雰囲気ですね~」
エデルガルドの視界から突然ジェマが消えた。
「お?・・・ぐっ」
気が付けばエデルガルドは腕を切りつけられていた。
「泣き叫ぶまで切り刻んでやる・・・」
腕を抑えたエデルガルドの視界に陽炎のようにジェマが姿を現した。
「見えないぐらい動きが早いですね~。ふん!」
エデルガルドが力を込めると肉が盛り上がり切られた部分を止血した。
「筋肉馬鹿が。飽きるまで切り付けてやる・・・」
ジェマは再びエデルガルドの視界から消えた。
「またですか~・・・ん~」
エデルガルドは瞬時に目を閉じ精神を集中した。
エデルガルドが刀を瞬間的に右側に立てたと同時に
ジェマの斬撃がエデルガルドの刀と衝撃音を立てて交わった。
「ちっ!」
ジェマはまたエデルガルドと距離を取った。
エデルガルドはニコニコしながらジェマを見た。
「凄い動きですね~。暗殺稼業の動きですね~。」
「そうだ。お前も私の仕事の一つにすぎん」
ジェマはまたゆらゆらと左右に動き始めた。
「これはアリスでは見切れませんね~。
私も本気を出さないと~」
「ふん。本気を出したから何なのだ」
エデルガルドの視界から再びジェマの姿が消えた。
その瞬間にエデルガルドの目が青く光った。
「そこですね~っ」
エデルガルドが刀を振り切った先にジェマの剣が交わった。
「なっ・・・こ、この・・・」
エデルガルドは交わった刀ごとジェマを力ずくで投げ飛ばす勢いで
大きく振りかぶった。
「がああああっっ!」
ジェマはエデルガルドの怪力で大きく吹き飛ばされ壁に衝突した。
がらがらの音を立てて崩れる瓦礫がジェマの上に降りかかった。
「私はアリスとは違いますよ~。殺気の方向である程度分かります~。
力は私のほうが上のようですね~」
瓦礫を押しのけてジェマが立ち上がった。
「ふん・・・簡単には勝てない相手ってわけね・・・」
ジェマを全身を怪しげなオーラで纏い始めた。
「ん~本当に嫌な空気ですね~」
「・・・死んでもらおうか・・・」
ジェマは先ほどと同じように姿を消してエデルガルドに襲い掛かった。
エデルガルドは殺気の向かうほうに体制を向けた。
「どこを見ている?」
「!」
ジェマの鋭い攻撃がエデルガルドの背中を切りつけた。
「うわっ・・・痛~」
エデルガルドの背中から血がにじんでいる。
エデルガルドは再び力を込めて止血した。
「殺気の方向が・・・まさか~」
「ふん・・・周囲に殺気を広げた・・・。
これで私の放つ殺気の方向が分かりにくくなっただろ」
「困りましたね~」
「さあ・・・観念してもらおうか・・・」
◆ ◆ ◆
ジェマの暗殺術の動きはエデルガルドを翻弄した。
何十分も続くジェマの攻撃はエデルガルドを苦しめた。
「ふふ・・・ゴリラ女め。貴様に私の動きを止めることは出来ないぞ。
絶命するまで切り刻む・・・」
ボロボロ傷だらけのエデルガルドの表情は
変わらずニコニコしている。
「はぁ・・・はぁ・・・そうですね~。なんとかしないといけませんね~」
「ほざけ!殺気で私の居場所を突き止めることはもうできん!」
ジェマは姿を消した。
エデルガルドは目をつぶっている。
「たぶん・・・アリスならこんなことしてそうなんですよね~」
「とどめだ」
ジェマが攻撃のアクションを取ろうとしたとき、
エデルガルドの肉体がこれまでにないほど大きく膨れ上がった。
エデルガルドは大剣を地面に向けて叩きつけた。
爆弾が爆発したかのように地面がはじけ飛んだ。
「くそっ!瓦礫が!視界が!小癪な!」
そ こ で す ね
エデルガルドはジェマに抱き着いた。
「き、貴様ぁ!!!」
ジェマはエデルガルドに抱き着かれたまま
抵抗したがエデルガルドの怪力に敵わない。
「捕まえましたよぉ~」
エデルガルドはジェマを強く締め付けた。
「ぐあぁぁっ!」
「行きますよ~!」
「な、なにをするぅ?やめろぉ!」
エデルガルドはジェマを高く投げ上げた。
「あああああっ!」
エデルガルドは目を青く光らせて
空から降ってくるジェマに対して
強烈な一撃を叩きつけた。
「アリス返してもらいますよぉぉぉぉ~!」
ジェマは剣で防ごうとしたがエデルガルドの怪力に歯が立たない。
「ああああああああっ!!!!」
ジェマは3軒分の家の壁を突き破りながら吹き飛ばされた。
ジェマの飛ばされた軌跡には砂埃が巻き起こっている。
「はぁ・・・はぁ・・・どうでしょ~」
エデルガルドはジェマが飛ばされた方向に歩いて行った。
ジェマが家の壁に叩きつけられて気絶している。
「はぁ・・・はぁ・・・困りました~気絶してる」
(ひ、ひぃ~ジェマ様が!負けた!ば、化け物だ~!!!!)
暗殺隊はジェマの敗北を見て一目散に退却し始めた。
「化け物なんてヒドイですぅ~私は淑女ですよぉ~!!!」
逃げる背中にエデルガルドは声をかけた。
(エデルガルド様、この後どういたしましょうか)
エデルガルドの部隊が近づいてきた。
「そうですね~。とりあえずアリスがいると思うので
彼女の城まで行きたいんですが~」
(な、なんだ?)
エデルガルドの部隊が倒れていたジェマのほうを見ると
そこにはジェマの姿はなかった。
(あ、あそこに!)
隣の建物の屋上にボロボロのジェマが立っていた。
気絶しているふりをして脱出するタイミングを計っていたようだ。
「いつのまに~!アリスを返しなさい~!」
「ふん!ここから南東に城があって小娘はそこにいる。
所詮、奪った廃墟の古城だ。城ごと捨てるから勝手に持っていけ。
もう死んでいるかもしれんがな!
・・・エデルガルド!貴様は私の獲物になった!
必ず命を取りに行くぞ!」」
ジェマは捨て台詞を吐くと姿を消した。
(追いかけますか?エデルガルド様!)
「いや・・・先にアリスを探しに行きましょう~」
エデルガルド一行は南東に歩みを進めた。