導入
ドラノマド帝国四聖統闘士シャミル・ナーセルは
完全独断でグレゴリスとの国境を越えていた。
シャミル「・・・我慢できない・・・強い奴と戦いたい・・・」
ドラノマドの力王と呼ばれるシャミルは
誰よりも戦いに飢えた凶戦士である。
国境を越えグレゴリス辺境の町テイルストリートに
一人で侵入してきたシャミルは街中を徘徊した。
シャミル「強い奴・・・」
しかしテイルストリートはグレゴリスの中心街から離れ
いたって普通の農民しかいない町である。
シャミルの頭に禁忌が浮かんで小さく呟いた。
シャミル「この町を火の海にすればあるいは・・・」
シャミルはそんなことを感じながら広場の低い塀の上に腰かけ、ぼんやりと長閑な街を眺めていた。
そんなシャミルに街の衛兵が声をかけてきた。
衛兵「おい、あんた。見ない顔だな。そんなところで何をしている?」
シャミルは衛兵をちらりと見てからすぐに視線を戻した。
シャミル「(弱い)・・・気にするな」
衛兵はその受け答えが気に入らなかったのか
大きなシャミルの体に近づきその手首を掴んだ。
衛兵「怪しいな。詰所まで来てもらおうか」
その瞬間シャミルは立ち上がり腕を高々と上げた。
衛兵「わっ。な、なんだ・・・」
手首を掴んだままの衛兵の体は軽々と持ち上がった。
そのままシャミルは腕を大きく振り衛兵を広場のほうに放り投げた。
衛兵は大きな声を上げながら広場の中央にある噴水の周りのレンガ塀に激突した。
衛兵はたまらず気絶してその場に倒れた。
シャミルは大きくため息をついてまたその場に座り込んだ。
シャミルは大罪と知りながらも国境を越えたが、今、自分が何をしているのかわからなくなった。
シャミル「どうしよう・・・」
「お帰りになればいいんですよ」
シャミルに柔らかいトーンの声がかかった。
シャミルは声の方向に視線を合わせた。
白髪メイド姿の眼鏡の女性が立っている。
シャミルはその女性を知っていた。そしてにやりと笑った。
シャミル「お前・・・知っているぞ。グレゴリスの幹部だ・・・」
その女性はグレゴリス帝下最高士官の一人、ダリラ・クローチェだった。
ダリラ「国境衛兵から連絡がありましたから。大柄のドラノマド戦士が通過したと。
困りましたね。独断行動でしょ?今、うちは手薄なんですよ」
シャミル「お前強い。私と戦え。」
ダリラ「お帰りください」
シャミル「ダメだ。戦う」
ダリラ「原始人ですか?困りましたね」
シャミル「戦って満たされたら帰る」
ダリラ「・・・はぁ・・・」
シャミル「わかるぞ。お前の肉体・・・私と同じだ」
ダリラ「私、これでも可愛いのを目指しているんですけど」
シャミル「お前もごつい」
ダリラ「ご・・・・・・お前をこの国から蹴り出す」
ダリラの目つきが変わった。
シャミル「ひゃっほう!」
シャミルの肉体が膨れ上がった。
構えて戦闘準備に入った二人を離れたところから多くの住民が心配そうに見つめている。
決着
(今のうちに逃げなさい)
心配そうに様子を見ていた町民が少しずつその街を離れていった。
ドラノマド四聖統闘士シャミルは本物の狂戦士、ダリラは確信した。
ダリラ「これは・・・マズい」
シャミルはゲラゲラ笑いながら至るものを破壊し始めた。
シャミル「ぎゃははは!オラオラ!」
シャミルは完全にトランス状態になっている。
ダリラは手あたり次第に暴れるシャミルの攻撃を捌いていたが
シャミルの攻撃を躱してもその拳を纏う強力な衝撃波は
少しずつダリラの体力を奪っていった。
ダリラもスキだらけのシャミルに反撃するが
その鋼鉄のような肉体にはなかなかダメージが通らない。
ダリラ「なんて無茶苦茶な・・・マズいですね。
勝てるイメージがわかない・・・
ふふ・・・思い出しますね。以前のベタニアみたい・・・」
シャミル「ぎゃはははぁ!その程度かぁ!」
シャミルは腰を曲げ大きく後ろにのけぞった。
その時シャミルの目に背後の光景が映った。
シャミル「あ・・・?」
シャミルの背後でダリラの部下がこそこそと住民を避難させているのが見えた。
シャミルは体勢を元に戻して少し冷静を取り戻した。
シャミル「ああ、そういうこと?・・・冷めるなぁ?さっきまで観客がたくさんいたのに。
死合の観客が途中退場するなんてドラノマドじゃ許されない」
シャミルはダリラの部下と住民たちに向かって突進していった。
シャミル「観客はこそこそするなぁ!代金を命で払っていけ!」
ダリラ「しまった!マズい!」
ダリラはシャミルの動線を防ぐために先回りしようとした。
シャミル「なんてな」
ダリラ「えっ?」
シャミルは急旋回し、ダリラの腹に向けて強力なパンチを繰り出した。
ダリラ「ごふおぉっ!」
ダリラはシャミルの攻撃をまともに受け、後方に大きく吹き飛ばされた。
ダリラ「がはっ・・・はっ・・・」
シャミルはダリラのほうに向けて歩いていった。
シャミル「ばーかぁ。甘いなぁ」
シャミルは倒れているダリラの首を掴んでから持ち上げた。
シャミル「私の背中ガラ空きだったのにな。弱者を守りたくなったか?」
シャミルはダリラの首を強く締め付けた。
ダリラ「が・・・あっ・・・ふふ」
シャミル「あ?何がおかしい?」
ダリラ「町民は全員避難させました・・・これ以上被害は出ません」
シャミルはダリラのしたり顔を見て苛立った。
ダリラの首をさらに強く絞めつけた。
ダリラ「がっ・・・あ・・・あ・・・」
シャミル「避難させたからなんなんだよ?」
ダリラ「もともと・・・こんな争いは・・・認められない」
シャミル「あ?」
その時だった。
マイラ「その通りです。手を引きなさい」
シャミルの視線の先にグレゴリス帝国のマイア・ルシュールが立っていた。
シャミル「・・・お前も強い、戦うか?」
マイラ「ふざけるな。なぜ私が血を流さなければならない。私はそんなステージじゃないのだ」
マイラは髪をふぁさっとかき上げながら言い放った。
シャミルはマイラをじーっと見定めている。
マイラ「我がグレゴリス帝国とドラノマド帝国は正式に不干渉協定を締結した。
貴様がこれ以上、我が国に単独行動で危害を加えるならば
重大な国交侵害となる。手を引け・・・」
シャミル「・・・」
その時シャミルの後ろからドラノマドの兵士が走ってきた。
トランス状態のシャミルに近づけず、ずっと待機していたようだ。
兵士「シャミル様!帝王ザラ・ジャッバール様からの伝書にございます」
シャミルはその伝書を広げて内容を確認した。
(国内で最強ですらない者が他国でその中途半端な力をひけらかすな。
現行禁止されているドラノマド国内での四聖統闘士を含めた十傑どうしの決闘を許可する。)
シャミルはその文面を見た後、大きな声で笑った。
シャミル「ははは!中途半端か!さすがザラ様!戦いの民の扱いに長けておられる」
シャミルはダリラをその場に開放してドラノマドの方向に向けて歩き始めた。
マイラ「大丈夫か?」
ダリラ「ああ・・・すまない」
シャミル「眼鏡!私はドラノマド最強になったらまた来るぞ。
今度やるときはもう少しマシに戦えるようになっておくんだな!」
シャミルは高笑いをしながらその町を離れていった。
ダリラ「・・・」
マイラ「戦った感想はどうだ?ドラノマドの戦士は?」
ダリラ「私は・・・非力だな・・・」
マイラ「士官としてはしっかり役目を果たした。住民は無事だ。
しかし今後の事を考えなければな。ドラノマドは今後も我が国の脅威になり続ける」
ダリラ「・・・今回の戦い、ベタニアに話したら笑われるな」
マイラ「それもいいじゃないか」