World Chronicle / Battle Record 056

カティンカvsパニーニ

カティンカ
VS
パニーニ

独立国ソシリアの南部にある街で、今日もパニーニは暴れていた。 街の広場には、彼女によって数人の住人が正座させられている。 父親、母親、そして小さな娘の3人家族のようだ。 パニーニは家族を見下しながら、ゆっくりと品定めをするようにその周囲を歩き回る。 「お前たち……自分が何の…

Compiled Battle Record

導入と決着

戦闘記録 056

導入

独立国ソシリアの南部にある街で、今日もパニーニは暴れていた。
街の広場には、彼女によって数人の住人が正座させられている。
父親、母親、そして小さな娘の3人家族のようだ。

パニーニは家族を見下しながら、ゆっくりと品定めをするようにその周囲を歩き回る。
「お前たち……自分が何の罪を犯したか、分かっているかしら?」
「……わかりません」
「お家に帰りたいよぉ……」
「パニーニ様……どうかお許しください」
パニーニは悪意たっぷりに嘲笑った。
「だめね! 罪の自覚すらないお前たちのこと、刑吏長官として見過ごすわけにはいかないわ」
「……一体、我々が何の罪を……」
「その小娘が、私を指差したからよ」
「え?」
「うぇぇ~ん……」
「そ、そんなことで……っ?」

ぴしんッ!

パニーニは、正座している父親の頬を平手打ちにした。
「ぐっ……」
「その目つき、生意気ね!」

ぱん、ぱん、ぱんッ!
「あっ……」
まともに衝撃を受けた父親は体勢を崩し、横倒しになった。
「あなた!」
「パパぁ~!」

パニーニは担いでいた大きな鞭を肩に乗せ直し、冷酷に言い放った。
「私は独立国ソシリアの刑吏長官よ。その私に対して、
お前の娘は指を差し『変な色』と抜かしたのだわ。……不敬罪と侮辱罪が成り立つ一大事よ」
「そ、そんな……お許しを! ほら、お前からも謝りなさい!」
「うぇ~ん、ごめんなさい~っ」
パニーニは天を仰いで笑いながら、鞭をヒュンヒュンと風を切る音を立てて振り回した。
「ダメね。父親はしばらく連行するわ。娘の教育に失敗した代償を、たっぷりと与えてあげる必要があるもの」
「ど、どうかお許しを……! お願いいたします!」
母親が縋がり付こうと手を伸ばした瞬間、パニーニの平手が閃いた。
「くどいわ!!!」

ばちんッ!
「ああっ!」
母親が後ろへと倒れ込む。
「おかあさん! ええ~ん!」

パニーニは鞭の先端を、ゆっくりと娘のほうへ突き出した。
その瞬間、父親は顔面蒼白になり、パニーニに必死で懇願した。
「つ、妻と子供には手を出さないでくれ……っ!
パ、パニーニ様、従います! 何でも従いますから!」
パニーニは横目で父親を冷たく睨みつけると、吐き捨てるように命じた。
「連れていきなさい」
その言葉と同時に、控えていたパニーニの部下たちが数人近づき、父親を羽交い締めにした。
「おとうさん、おとうさ~ん! ええ~ん!」
パニーニは、泣き叫ぶ娘を睨みつけた。
「うるさいわね。少し黙らせる必要があるようね?」
パニーニが悪魔のような残虐な笑みを浮かべ、鞭を振り上げようとした――その時。

がっ!
「パニーニ様! パニーニ様! ど、どうかお許しを……この子だけは、この子だけは!」
「しがみつくな、下民が!」

ばんッ!
パニーニは、再び縋り付いてきた母親を容赦なく蹴りつけた。
そして、そのまま母親の身体を踏みにじる。
「私に触れたわね? この刑吏長官様の崇高な身体に……重罪よ、重罪」
パニーニが足元に力を込め、母親を踏みつける。
「ど、どうか……お許しを……」

……
……
……

「はぁ……こりゃあ街の治安が悪くなるわけだ」
「ん?」
パニーニが声のした方向へ鋭く振り向くと、そこには一人の女が立っていた。
その姿を見た瞬間、パニーニの顔に狼狽の色が走る。
よく知っている人物――自分と同等の地位にある人間が、そこに立っていたからだ。
国家治安長官カティンカが、呆れ果てた表情でパニーニを見下ろしている。
「か、カティンカ……なぜ、お前がここにいるのよ」
「犯罪者をシめに来たんだよ」
「は、犯罪者……?」
「自分の罪に自覚がない犯罪者ってのが、一番厄介ねぇ」
「わ、私のことか!? ふざけるんじゃないわよ!」
「パニーニ、お前調子に乗るのもいい加減にしなさいよ。刑吏長官ってのは刑を『執行』するだけの権限でしょ。
 刑そのものを決めるのはあんたじゃない。ただの越権行為の犯罪者よ、それは」
「黙れ! 明確な悪があるときは、私にだって権限があるわ!」
「じゃあ、その家族のどこに明確な悪があるって言うのさ?」
「私の姿を侮辱したのだ!」
「その服が『変な色』って言われたこと? ……事実じゃない。
 アタシなんてさ、あんたの服装……ずっと〇○○だと思ってたわよ?」
「!!! 貴様ぁ!!! ぶっ殺してあげるわ!!!」
「あはっ。やっとやる気が出てきたみたいね」
 カティンカは不敵に笑うと、腰の剣を抜き、ブーツの音を響かせて一歩前に踏み込んだ。
「貴様……国家の幹部職同士が刃を交えるということが、どういうことか分かっているのか!?」
「だから言ってるじゃない。あんたは一度、徹底的にシメられるべきだと思ったのよ。――この国家のためにね」
 パニーニもまた、激昂しながらサーベルを抜いて構えた。
「私を舐めるなよ! この国の刑の執行を司る、執行官の長を舐めるんじゃないわよ!」
「はいはい。せいぜいアタシを楽しませて頂戴ね」

次の瞬間、カティンカとパニーニは互いに地面を蹴って激突した。
二人の刃が交錯し、周囲に凄まじい衝撃波が巻き起こる。

決着

キィィィン――ッ!!
広場に、鼓膜を突き刺すような高い金属音が響き渡った。
パニーニの放った鋭い刺突を、
カティンカは流れるような剣さばきで受け流す。
「ふん、口ほどにもないわねカティンカ!」
「それはこっちのセリフ。口を動かす暇があるなら、もっと腰を落としたらどう?」
激しく火花を散らしながら、二人の刃は一進一退の攻防を繰り広げていた。
カティンカの剣筋は、一分の隙もないほどに真面目で実直だ。
国家の治安を預かる者としての責任感が、その一撃一撃の重みに表れている。

(な、何よこれ……本当にアタシをシめ殺す気じゃないの……っ!?)

一方で、パニーニの心の中はすでに悲鳴を上げていた。
数合、十数合と刃を交えるうちに、カティンカの圧倒的な実力差を肌で痛感させられる。
受けるたびに両腕が痺れ、自慢のサーベルが信じられないほど重く感じられた。
もともと格下をいたぶるのが専門のパニーニである。
本物の強者を前にして、プライドよりも痛いのは嫌、今すぐ逃げ出したい
という本音を抑えられずにいた。
しかし、ここで背を向ければ刑吏長官としての威厳は丸潰れだ。
何より下民たちの前で無様に敗走するなど、彼女の肥大化したプライドが許さなかった。

「舐めるなあああッ!!」

パニーニは残った気力を振り絞り、狂ったようにサーベルを振り回した。
捨て身の猛攻。カティンカの予測を一瞬だけ上回る速度で、鋭い斬撃がカティンカをかすめる。

「へえ……。少しは意地があるみたいじゃない」

カティンカが不敵に目を細めた。だが、パニーニの反撃もそこまでだった。
本気になったカティンカの猛攻が始まる。

嵐のような剣撃。パニーニは防戦一方になり、ただただ後退することしかできない。
キィン、カン、と甲高かった金属音は、
次第にパニーニの体勢が崩れる鈍い音へと変わっていく。
ついに強烈な一撃がパニーニのガードを弾き飛ばし、彼女の足元ががら空きになった。

「ひっ……!」

恐怖が限界を迎えた。パニーニは完全に戦意を喪失し、尻餅をつく寸前で無様に反転した。

「あんたたち、何見てるのよ! あいつを止めなさい!」

控えていた自分の部下たちをカティンカの方へと突き飛ばし、
パニーニは猛スピードで逃げ出し始める。
曲がり角へと駆け込みながら、パニーニは涙目で振り返り、負け犬の遠吠えを響かせる。

「覚えていろカティンカ! この屈辱、必ず果たしてやるからなぁ!」

声だけが虚しく広場に響き渡り、パニーニの姿は路地の向こうへと消えていった。
残されたパニーニの部下たちは、凄まじい威圧感を放つカティンカに睨まれ、一歩も動けずに硬直している。

「……あいつ、逃げ足だけは一級ね」

カティンカは深いため息をつくと、剣をサヤに収めた。
それだけで、パニーニの部下たちは悲鳴を上げてクモの子を散らすように逃げ去っていった。
もちろん、捕らえられていた父親を解放して。

「う、うう……あなた!」
「お父さん! お父さんっ!」

羽交い締めから解かれた父親へと、母親と娘が泣きながら駆け寄る。
三人はお互いを抱きしめ合い、無事を確かめ合うように激しくむせび泣いた。
カティンカは静かにその家族へと近づき、腰を落として小さな娘と目線を合わせる。

「もう大丈夫だよ。お嬢ちゃん、怖かったね」
「う、うん……。お姉ちゃん、ありがとう……!」
娘は涙を拭いながら、小さな手でカティンカの服の裾をぎゅっと握りしめた。
父親と母親も、地面に伏せるようにしてカティンカに何度も頭を下げる。

「カティンカ様……! 感謝いたします、
本当に、何とお礼を申し上げたらよいか……っ!」
「私たちの命の恩人です……! ありがとうございました!」

家族からの心からの感謝の言葉を受けながら、カティンカは少し照れくさそうに頭を掻いた。

「いいって。仕事だからね。……それにしても、
あのバカをどうにかしないと、この国の先行きが思いやられるよ、本当に」

カティンカはパニーニが逃げていった方向を睨みつけ、やれやれと首を振るのだった。