World Chronicle / Battle Record 055

テニアvsセラフ

テニア
VS
セラフ

エル・ユグドラシル連邦の国境沿いで、 今日も激しい争いが起きていた。 空の将セラフ・アシュウィンドが、 優雅に空を舞いながらユグドラシル連邦の兵隊たちを蹴散らしていく。 「あははっ! 遅い遅い遅い!」 「くそっ! 奴の姿を捉えられん! はっ!」 ブン、と風を切る音が虚しく響…

Compiled Battle Record

導入と決着

戦闘記録 055

導入

エル・ユグドラシル連邦の国境沿いで、
今日も激しい争いが起きていた。

空の将セラフ・アシュウィンドが、
優雅に空を舞いながらユグドラシル連邦の兵隊たちを蹴散らしていく。

「あははっ! 遅い遅い遅い!」
「くそっ! 奴の姿を捉えられん! はっ!」

ブン、と風を切る音が虚しく響き、剣は空を斬った。
その隙をセラフは見逃さない。
強烈な蹴りが兵隊の首筋を的確に捉えた。

ゴッ、と鈍い衝撃音が響く。
「があっ……!」

兵隊はその場に崩れ落ち、そのまま意識を失った。

地上に降り立ったセラフは、
ゆっくりとその兵隊の方へと歩み寄る。
身をかがめ、首筋にそっと手を当てた。
「まだ生きてるわね。まあ……いいわ。そのままにしてあげる。さて……」

彼女が遠巻きに様子を伺っていた兵隊たちに視線を向けると、
彼らは狼狽し、一目散に逃げ出し始めた。
「た、隊長がやられた!……いったん退却だ!」

セラフは無表情でその背中を見送った後、
ゆっくりと視線を落とし、横たわる隊長を見つめた。
「……あなたも不甲斐ない部下を持って可哀想ね。
これほど必死に戦ったのに……同情するわ」

少し残念そうな表情を浮かべた後、
彼女はしばらくその辺りを歩き回った。
「ふふ。ここは私たちイルミンスールの領土になるのね」

わずかにエル・ユグドラシルの領地が奪われた、決定的な瞬間だった。
「さて……イルミンスールの中央庁への報告が必要かしらね……」

そんな独り言を呟いていると、近づいてくる足音が聞こえた。
「……好都合ね」

声のする方へ視線を向けると、
そこには長身で短髪の女性が歩いてきていた。
怪訝そうに睨みつけるセラフに、
その女は不敵な笑みを浮かべる。

「あなた、誰?」

長身の女は、ただ者ではない異様なオーラを纏っていた。
「本来なら名乗る必要もないのだけど……
あなたはイルミンスールの将軍よね?
だったら、私たちの名前くらいは知ってもらわないといけないわね。
……アルバトロス三姉妹のテニアよ」

その名を聞いた瞬間、セラフの目がわずかに見開かれた。
「……ああ、あの悪名高いコソ泥三姉妹じゃない。
神聖な戦いの最後に現れて、獲物だけを奪っていく下衆ね」

テニアは可笑しそうに笑いながら、目を閉じた。
「ふふ……何とでも言いなさい。
私たちアルバトロス三姉妹は、すべてを掌握するの。
……あなたがユグドラシルの兵隊を片付けてくれたおかげで、
随分と仕事がしやすくなったわ」
「へぇ……どういう意味かしら?」
「この領土は、私たちアルバトロス三姉妹のものになるのよ」
「あははっ! ユグドラシルでもイルミンスールでもない、
ただのコソ泥姉妹がこのエリアを手に入れるというの?」
「そうよ?」
「世間知らずにも程があるわね……。
今なら見逃してあげるから、さっさと消えなさい」

その瞬間、大気が激しく揺れた。
テニアの全身から、凄まじいオーラが噴き出す。

「はあああ……! 空の将セラフ……獲物として不足なしね。
あなたの身柄を拘束して、他の将軍たちも炙り出してあげるわ」

対するセラフの身体もゆっくりと浮き上がり、再び空へと舞う。
「身の程知らずは、この土地で身を滅ぼすことになる……。
教えてあげるわ。コソ泥と、大国の将の『格の違い』というものをね」

二人の凄まじい覇気が真っ向からぶつかり合い、その場に激しい衝撃波が走った。

決着

「はあああああっ!」
テニアは力強く拳を握り、深く腰を落とした。
テニアの身体の周りに、激しいオーラが滾る。
その様子を建物の上から見下ろすセラフは、余裕の笑みを浮かべていた。
「ふふ。素人格闘の相手をすることになるとはね」
「行くわよ! 空の将!」
テニアが力強く地面を蹴り上げると、
一気にセラフのいる建物の2階部分まで飛び上がった。
「へぇ……普通の人間の身体能力じゃないのね~。感心感心」
テニアはセラフのほうへ拳を突き出し、一直線に突進した。
セラフがふわりと空へ飛び上がって避けると、
テニアはそのまま建物に拳を突き立てた。

ズゴオオオオオッ!

テニアの拳から放たれた衝撃波によって、古い建物は中央から大きく崩壊し始めた。
テニアは崩れ落ちる瓦礫を蹴り上げ、地面にすたりと降り立った。
セラフもまた、近くの地面に舞い降りる。
「無駄な動きが多いのね……」
テニアの凄まじい破壊力を目の当たりにし、セラフの顔から笑顔が消えた。
テニアは不敵な表情を浮かべ、セラフを睨み据えた。
「……嫌なのよ……見下ろされるのが。……だから、お高く留まっている奴を引きずり降ろしたの」
セラフの瞳に、少しだけ怒りの色が浮かんだ。
「……コソ泥が調子に乗らないことね……」

テニアはその場で再び拳を握りしめ、力を溜めた。
そして先ほどと同じく、セラフ目掛けて突進する。
テニアの衝撃波を孕んだパンチが、分厚く空気を切り裂く。
「くっ……ちっ……!」
軽やかにテニアのパンチを避けるセラフだったが、
その拳の風圧だけで、セラフの衣服がダメージを受けて裂けていく。
「はっ! はっ! はっ!」
テニアの猛攻を紙一重で避けるセラフの表情から、完全に余裕が消え去った。
「ちっ!……くっ!」
テニアは拳を繰り出しながら叫ぶ。
「私の攻撃が当たりさえすれば! 貴方は崩れ落ちる!」
テニアの強力な一撃が、セラフの頬を掠めた。
「!!!(当たった!?)」
「勝機! はああああああああああああああああっ!」
テニアの拳が、セラフの顔面をとらえようとした――その瞬間。

フワリ。

セラフはテニアが繰り出した腕を、上から軽く叩くような反動を利用し、
華麗に逆立ちをする体勢から一気に空中へと飛び上がった。

ゴキッ!

空中で反転したセラフの強力な蹴りが、テニアの首に突き刺さる。
「がっ……あ」

ドサッ……。

テニアはその場に倒れ伏した。
急所である首を狙われ、全身が微かに痙攣している。
セラフは腕を組み、ニヤニヤと見下ろしながらあざ笑った。
「……いつ見てもいい光景。雑魚を見下ろすこの感覚……最高」

ドガッ!
「っは!」
横たわるテニアの腹筋に、セラフのブーツが上から突き刺さった。
「生意気な肉体ね、コソ泥」

グググググ

ブーツの底が、テニアの腹に深く沈み込んでいく。
「がっ……あああ!」

ドッ! ドッ! ドッ!
「がっ!……あっ!……がはっ!」
セラフは何度も容赦なく踏みつけた。

ズドッ!!!
最後の一撃がテニアの身体を打ち抜く。
「ごっ…………あ……」
口からよだれを垂らした状態で、テニアはその場に力尽きた。

「まったく……無駄な時間を過ごしたわぁ……」
セラフはゆっくりと背を向け、歩き始めた。

……。
しばらく歩みを進めたとき、背後からかすかな気配がした。
「ごほっ……が……はっ……」
テニアが、ゆっくりと上体を起こしたのだ。
その様子を見て、セラフはあからさまにイラついた表情を浮かべた。
「まだ生きてるの?……さっさと逝きなさい」
セラフは鞘から剣を抜き、テニアを突き刺そうと突進した。

その瞬間――。

ゴオッ!

テニアの全身から、凄まじいオーラが吹き荒れた。
「…ふふふ。……さすがイルミンスールの将格。そうよね、姉様の言う通り……一筋縄じゃ行かない。はあああっ!」
ボロボロになったはずのテニアから、これまでとは比べ物にならないオーラが噴き出し、セラフはうろたえた。
「な、なんなの……こいつは!?」

テニアは天に向かって大きく叫んだ。
「私はアルバトロス姉妹次女のテニア! これからが本番よ!」

……
……
……

まさに誤算だった。
イルミンスールの将軍として、相手がユグドラシルの将軍ならいざ知らず、
名もなきコソ泥にここまで追い詰められるとは想像すらしていなかった。
セラフとテニアの戦況は、まさに互角。
セラフが空中から繰り出す多彩な攻撃を、
テニアは持ち前の格闘センスで次々と見切り、対応していく。
「はあっ! はあっ! やっ!」
「くっ! この、コソ泥の分際で……私に……!」
テニアは一心不乱に攻撃を続ける。
セラフの、あのふわりとした滑らかな動きはもうない。
セラフの脳裏に「退却」の二文字が浮かんだ。
彼女はテニアから大きく距離を取る。
しかし、テニアは逃がさじと再び接近してくる。
セラフが背を向けようとしたその時、テニアが叫んだ。
「コソ泥相手に逃げるのか!!!!!」

ピキッ、とセラフの中で何かが切れた。
彼女は向き直り、全身の力を振り絞る。
「誰に向かって言っているの?……もう終わりにしてあげるわ!」
セラフの激昂した表情を見て、テニアは不敵な笑みを浮かべた。
「私も最後の手段で行くわよ」
テニアの身体を包んでいたオーラが動き、すべて右拳へと集約されていく。
セラフもまた、全オーラを剣へと集中させた。
「はあああああああああああっ!」
テニアの体当たりにも似た猛烈な突撃を、セラフは剣で受け止めた。

ガキン!!!

「はああああああああああっ!」
「はああああああああっ!」

二人のオーラが衝突し、辺りに巨大な爆発を引き起こした。

……

もうもうと立ち込める煙の中から、倒れた二人の姿が現れた。
テニアは目を閉じ、気絶している。だが、その表情はどこか安らかだった。
一方、少し離れたところでは、セラフが驚愕と当惑の表情で震えながら呟いていた。
「くっ……身体が……動かない。そんな、そんなそんな、この私が……空の将が……。
バカな、こんなコソ泥に……。まずい、まずい、まずい……
早く体勢を整えなければ……。」

その時、コツコツと足音が聞こえてきた。
セラフは辛うじて動く首をまわし、音のするほうを見た。
一人の女が、テニアのほうへ向かって歩いていく。
テニアの傍らで、その女は静かにしゃがみ込んだ。
「テニア……ありがとう。やはり君は僕の最高の作品だ。
……まさか空の将と引き分けるとは思わなかったよ」
その女はゆっくりとテニアの身体を担ぎ上げると、
続けてセラフのほうへと歩み寄ってきた。
「……初めまして。空の将」
「なっ……なんなの……お前は……」
「僕の妹が、随分とお世話になったね……」
「妹?……ということは、アルバトロス姉妹の……っ」
「これが、僕たちの新たな伝説の始まりさ。この地から始まる……」
「な……何を……」
「君は大事なゲストだ。……少し眠ってもらうよ」
「な……なん……」

その時あたり一面が、目も眩むような黄金の光で満ち溢れた。
……
ドドドド
……
……
「ふふふ。空の将を確保した」