導入
ノシアス共和国のレーベッカは首都へと向かっていた。
友人のユーディット君がアームストンの大公ティアナに
戦いを挑み敗北させられたことを聞いて
自ら身が引き締まる思いを感じていた。
「アームストンの大公・・・侮れないね。
・・・とりあえずノシアスの中央庁に行く必要があるか」
レーベッカはユーディットの部下に話を聞いた限り、
他のノシアス軍事院の騎士たちが中央庁に集まっていると
聞いたため自らも向かっていた。
ノシアス中央庁へ続く関所に差し掛かった時、
ノシアスとは雰囲気の違う衛兵たちが待機していた。
レーベッカは関所に入り入域の手続きをしようとした。
すると関所の衛兵はいつもと様子が違う表情で
恐る恐る話始めた。
「軍事院レーベッカ・デュエル様・・・。実は・・・」
「どうしたんだい?」
「アームストンの大公と名乗る方が・・・
この関所の通関確認をしているとのことで、
話を通さなければいけません」
「な・・・何を言っているんだ?ここはノシアスだぞ。
しかも私は軍事院の幹部という立場だ。
だれがそんな勝手なことを・・・」
「民事院の総務局が通知してきた対応です」
「・・・マーラっ・・・くっ・・・」
レーベッカは歯ぎしりをした。
民事院と軍事院の軋轢は認識していたが、
このような形で自らの身に降りかかるとは想像していなかった。
「しばしお待ちを頂きたい」
「冗談じゃない!私は中央庁舎に向かう。
マーラに言っておけ!そんなルールは認めない、と」
レーベッカが激高して叫んだ。
その瞬間。
「怒っちゃやーよ。金髪のおねぇさん!」
その茶目っ気たっぷりの揚々とした声のほうを振り向いた。
その先には装備に身を包んだカール髪の女性が立っていた。
「・・・誰だ」
レーベッカは睨みつけた。
「怖いわね~。眉間にヒビが入るわよぉ?まあいいわ。
私はミーラよ。ミーラ・アナンディーン。アーストンの大公よ」
レーベッカは驚いた顔をした。
「・・・そうか・・・君か。・・・部外者の分際で
この関所の入出の許可をだしているのは」
ミーラはへん、とした嫌味な表情を浮かべて言った。
「気分悪いわね~。おたくのマーラに許可もらってるのよぉ。
知らないわよぉ。お宅の軍事院と民事院が仲悪いなんて」
レーベッカは残念そうな顔をした。
「そうだな・・・。まあいい。・・・通してくれ。
私は中央庁に用事がある」
ミーラはニヤニヤしながらレーベッカを品定めした。
「ごめんねぇ~。
軍事院の関係者は3日後まで通すな、って言われてるのよぉ。特に幹部は」
レーベッカは苛立った。
「3日後?・・・何かあるのか?」
ミーラはあきれとも馬鹿にしたともみえる顔をした。
「まったく・・・。政治に携わっているくせに
全く国政行事に興味ないのね・・・。
まあいいわ・・・どっちにしろ通せないのよね」
「国政・・・そうか・・・民事院だけで何かを決めたいのか」
「あら・・・カンはいいのね」
レーベッカは剣を抜いた。
「承服できないルールには従えない。
軍人には軍人のルールがある。力づくでも通してもらおう」
ミーラは大きな声で笑い声をあげた。
「あーはっはっはぁ!わかりやすいサルね!
私の姉と同じ!私ね!姉がいるのよ。
全身、紫色の戦闘服に身を包んだ頭のおかしい狂人なんだけどね。
ノシアスとアームストンの国境で
なんだっけ・・・軍事院の騎士を倒したせいで
両国で問題になっているらしいわ。
後先考えない騎士はいつもトラブルの元ね!」
レーベッカは少し思案した。
(国境・・・軍事院の騎士・・・大公に負けた・・・ジモーネか?)
ミーラは背中に背負っていた大砲の角度を変え、
手に持っていた大きな斧を振り回した。
「私をその辺の騎士と思わないことね!
この武装大公ミーラ様は兵器マスターなんだから!」
レーベッカは足を開き力を溜めた。
「ここは突破させてもらう。マーラの悪事を止めないとな!」
「ふん。できるもんならやってみなさい!」
決着
レーベッカは叫んだ。
「私は急いでいるんだ。早く中枢に行かなければならない。邪魔をするなら、
アームストンの大公殿と言えども……切り捨てて進む!」
レーベッカは大きく足を踏み出し、剣先をミーアへ向けた。
ミーアは悪意たっぷりに笑うと、吐き捨てるように言った。
「ふん。なによ、正義ぶっちゃって。いいわ、私の華麗な武器の実験台にしてあげる。
あいにく私は姉と違って剣だけで戦う女じゃないわ。ま、斧ぐらいは使うけど」
レーベッカは剣を構え、一直線にミーアへ突撃した。
「悪い! 喋っている暇はない! 切らせてもらう!」
ミーアは懐から小さな銃を取り出した。
パキュン!
「……っ!」
レーベッカは間一髪、後ろへ飛び退いた。
パキュン! パキュン! パキュン!
レーベッカは地面を蹴って何度も跳躍する。
「ふふふ。躍らせてあげるわ」
「……君は正々堂々と戦わないのか?」
ミーアは腰に手を当てて笑った。
「何言ってるの。私は発明家よ?
私のこの小さな連装砲は、グレゴリスの変態と一緒に開発した代物。
心配しなくても良いわ。即死するような威力はないわ。
でも当たると悶絶するわよ。食らいなさい!」
パキュン! パキュン! パキュン!
「はっ! はっ! はっ!」
レーベッカは距離を取りながら、華麗に弾道を避けていく。
「くそっ! すばしっこいわね!」
ミーアは苛立ちを隠せない。その感情の起伏を、レーベッカは見逃さなかった。
「君がそのつもりなら、私も容赦しない!」
レーベッカが地面を力強く蹴ると、数倍の速さで一気にミーアの懐へ飛び込み、強力な斬撃を繰り出した。
「し、しまった……きゃああああああっ!」
ミーアは脇腹に強烈な一撃を受け、そのまま石畳へ叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……悪いな。私は先に行く」
背を向けようとしたその瞬間、レーベッカは間一髪で体勢を切り替え、
背後から飛んできた砲弾を回避した。しかし、砲弾の爆風が彼女の肩を抉る。
「くっ……」
ミーアはレーベッカへ大きな銃口を向けながら、怒りと悪意に満ちた表情で言い放った。
「はぁ……はぁ……よくもやってくれたわね。……がはっ……くそぉ……痛ぇな。
こっちも本気を出してやるわよ。この砲弾が当たったらあんた〇ぬわよ……。降参するなら今のうちよ」
レーベッカは冷静な表情で向き直り、憐れむような視線を向けた。
「君は……騎士というものを全くわかっていない」
「へっ……なんだってのよ……」
ミーアは肩に背負った筒を、両手でレーベッカへ向けた。
ドォン! ドォン! ドォン!
ミーアから放たれる砲弾が、町の建物や城壁を破壊し始めた。
「……ここはノシアスだぞ! 後で問題になる! やめるんだ!」
「うるさいうるさいうるさい! あんたを仕留められればそれでいいのよ!!」
レーベッカは覚悟を決めた表情を見せると、力を溜め始めた。
「……手段は選んでいられないな。はあああああああ!」
額の模様が光り、青いオーラが彼女の体を覆う。ミーアは異様な気配を感じてうろたえた。
「な、何なのよ……」
「行くぞ!」
「ふ、ふん! 避けることなんて出来ないじゃない! いいわ! 最大出力でお見舞いしてあげる!」
ミーアは両肩に筒を抱えると、二つの銃口から連続で砲撃を開始した。
ドォォン! ドォォン! ドォォン! ドォォン!
レーベッカは深く腰を落とし、瞬時に眼を閉じた。
「あはは! 観念したのかしら!」
その瞬間、レーベッカは大きく目を見開き、目にも止まらぬ速さで剣を振るった。
空中に浮かぶ砲弾すべてが、弾き返されてミーアの方向へ戻っていく。
「え? え? え? なんで!?」
自ら放った大量の砲弾が、今度はミーアへ襲いかかる。
「きゃああああああああああああ!」
ズガーン!
ミーアは爆風を辛うじてかわし、その場に倒れ込んだ。
……。
目の前には、力を溜め終えたレーベッカが立っていた。
「御免!」
レーベッカの渾身の一撃。
「いやああああああああああっ!」
ミーアは空中に吹き飛ばされた。
どさっ。
ミーアは地面に仰向けで倒れた。
「……私……まだ生きてる?」
レーベッカはミーアを見下ろしている。
「……ミーア殿。この件はノシアスの議会で正式に外交問題として報告させてもらう。
私は急がないといけない。手当の手配はしておく」
動けないミーアは、涙ぐみながら言い放った。
「ぐすっ……なによ……真面目な奴……。私、騎士って大っ嫌い。
ズルいじゃない。……体の頑丈さとかで、先天的に強さがある程度決まるんだから……。
だから私は……最強の兵器をつくるのよ。
見てなさいよ。どんな騎士もイチコロの兵器を作ってみせるんだから」
そうとだけ言い放つと、ミーアは顎を突き出し「さっさと行け」と合図した。
レーベッカは脇目も振らず、その場から立ち去った。