導入
エルドリア王国でのオーディションは
着々と進んでいった。
大半の騎士は剛力将軍のメイ・マゴーナグルの
基準には遠く及ばず、
結果を受けて城を後にするものが続出した。
そんな中で
イザドラ、カチャ、ヴェーラ、ペトラ、モデスタ
などがエルドリア側の興味を引き付けた。
エルドリア王国の会議室にて
「誰がいい?」
メイはその場にいるメンバーに問うた。
「ペトラは却下」
カミラが言い放った。
「なんでよ」
「あいつは適当な奴だろう」
グレータは噴出して笑った。
「誰が言ってんだかっ」
カミラは八重歯を出して怒り叫んだ。
「どういう意味だ!」
「真面目にやれ!」
メイの恫喝でカミラとグレータは静かになった。
「姫様はどう思いますか?」
ブリジットは目を閉じて悩んでいる。
「難しいですわね・・・。うーん。
将来を見据えるならカチャという少女は
なかなか見どころがありますわ。
ペトラは志望動機がダメですわね。
イザドラはスムーズに仕事ができそうな気はしますわ。
カミラも知ってるみたいですし。
あとは・・・」
メイは言葉に間が空いたブリジットのほうを見た。
「あとは・・・?」
「・・・ヴェーラという背の高い女性・・・
モデスタという危険な女性・・・
目つきがほかの志願者と違いましたわ。」
「確かに・・・」
カミラが声を上げた。
「ああ!メイに喧嘩売った奴な。
私はイライラしたぞ!加勢で飛び掛かりそうになった」
「なぜおまえがイライラするんだ?」
「出しゃばりの同族嫌悪だからでしょ。」
「グレータ・・・お前なぁ」
カミラがグレータと小競り合いを続けていると、
ブリジットがゴホン!と咳ばらいをしたタイミングで場は静まり返った。
・・・
そのタイミングで衛兵が会議室の廊下から声をかけてきた。
「将軍殿!会議中失礼します!」
メイが廊下のほうに歩いて行った。
「なんだ?どうかしたのか?」
「はっ。本日のオーディションに参加していた
ヴェーラ・ハカミエスというものとモデスタというものが
城前でいざこざを始めた模様。」
「ええ?」
ブリジットもカミラもグレータも立ち上がった。
◆ ◆ ◆
エルドリア王国城前
ヴェーラの前にモデスタが剣を持ち、立ちふさがっている。
二人の周りを王国の衛兵が少し離れたところで見ている。
本来は止めるべきなのだろうが、二人の異様な空気に二の足を踏んでいる。
「・・・何の用ですか。」
ヴェーラがモデスタに問いかけた。
モデスタは目をギラギラ光らせながら剣をゆっくりと振り回している。
「ちょっとねぇ・・・あなたの眼が気に入っちゃって・・・。
その辺のキラキラした眼とは違う・・・
深い・・・いや・・・無・・・なのかなぁ?
死者を見る目?・・・いや死者の眼なのかな?
・・・あなたに興味があるわぁ・・・」
モデスタは剣の柄を自分の足の付け根あたりに押し付けながら一人で興奮している。
ヴェーラはモデスタを睨んでいる。
「私は・・・あなたなんかに興味がないです。
やるべきことがあるのだから」
モデスタはへらへら笑いながら剣をさっきよりも早く振り回した。
まるで曲芸のように変則的な動きをしている。
「あらぁ・・・それは残念ねぇ・・・
ねえあなた・・・何のためにオーディションに来たの?」
「・・・あなたに答える必要はありません」
「お墓を守るんだって?ねぇ?」
ヴェーラの顔色が変わった。
「・・・」
「私、耳が凄い良くてねぇ・・・待ってる間に
あんたが国側と話している声が少し聞こえたから」
モデスタは不気味に笑っている。
「オリハルト西部・・・ってことはバルドー郡の墓地地帯のことかな?・・・かなぁ?・・・」
ヴェーラの顔色が険しいままだ。
「何が言いたい・・・」
「あらぁ?口調が変わったわねぇ。こわーい。
ただぁ、お墓参りに行こうと思っただけよぉ~。」
ヴェーラは剣を抜き取った。
「神聖な場所に立ち入ることは許さない」
モデスタも剣を構えた。
「うふ。単純な小娘ちゃん。私の言いなりにしてあげるわ」
ヴェーラはモデスタ目掛けて急接近した。
決着
ヴェーラの強力な攻撃は風圧だけで
その辺の木々が揺れるほどだった。
それを間一髪で避けるモデスタ。
「恐ろしい威力だねぇ。でもそんなん当たらないよ。」
モデスタは反撃でサーベルで突き刺すが
ヴェーラもかろうじてそれを捌き弾き返す。
決定打が無いまま消耗戦のような形が続いた。
「ふぅ・・・少し本気を出そうかな?ふふふ・・・」
モデスタの目が怪しく光り始めた。
「?」
ヴェーラは違和感は感じたが、変わらず攻撃を繰り出した。
しかし先ほどと違い、全く攻撃がかすりもしなくなった。
「どうだい?あたらないだろ?あはは」
モデスタはヴェーラ目掛けて何度も斬撃を繰り出す。
「くっ・・・」
ヴェーラは懸命にモデスタを狙うが攻撃は掠るだけでど真ん中には当たらない。
そんなヴェーラにとっての消耗戦がしばらく続いた。
気が付けば二人から離れた場所に人だかりができていた。
オリハルトの将軍たちも戦いを見届けていた。
「何かやってやがるな・・・」
カミラは言った。
「多分我々が見えている視界と違う視界がヴェーラに見えているかも知れない」
メイの呟きにグレータが反応した。
「どういうこと?」
「さっきオーディションで対峙したとき、視界がゆがむ感覚があった。
だから力で押し返して無理やり距離を取ったんだ。」
「・・・なんかの能力か」
「油断なりませんわ」
ヴェーラは攻撃を一心不乱にぶんぶんと繰り出しているが
モデスタには当たらない。
モデスタの表情に苛立ちが募っている。
「詰まんない・・・本気でやってる?」
モデスタはもしや、という表情を浮かべその場に直立した。
ヴェーラは好機とばかりにモデスタをめがけた。
「あんた・・・人を殺したことないね?」
モデスタの問いにヴェーラは一瞬動きが止まった。
「スキあり♡」
モデスタの強力な付きがモデスタの手の甲を刺した。
「あっ・・・」
ヴェーラは利き手の剣を落とした。
「チャンス!まだまだ行くよ。あははははぁ」
モデスタの目にもとまらぬ付きがヴェーラに襲い掛かった。
「・・・・あっ・・・ああああああっ!」
耐えていたヴェーラが我慢できず声を上げた。
「いい喘ぎ声だねぇ!もっと鳴きな!」
モデスタの猛攻が止まらない。
「きゃあああああ・・・あっ」
ヴェーラがその場に倒れた。その後、上半身だけ自分を叩き起こした。
モデスタが悪魔のような笑みを浮かべて見下している。
「どうりで・・・急所を狙うつもりもない・・・
おまけに私の技も食らえばそりゃ攻撃もあたるわけないわね。
力技で勝てるほど甘い世界じゃないのよ。
・・・舐められたものね。」
モデスタはヴェーラの顔を目掛けて蹴りを入れた。
「ぐっ」
モデスタは頬を蹴られたが既に正面を向いて睨み返した。
「あははは!あんた人の命も奪ったこともないんだろう?
死人の居場所を守るだけ・・・。
そんな奴に生きてる人間が守れるわけないでしょ・・・?
あははは。」
立ち上がれないヴェーラの無表情の裏に悔しさが滲み出ている。
「さて、もうあんたに興味はないから死んでもらおうかしらね」
ヴェーラの頬にモデスタがサーベルをぺたりと当てた瞬間、
モデスタめがけて槍が飛んできた。
◆ ◆ ◆
「!っつ」
モデスタは間髪入れず避けた。
槍を投げたのはオリハルトの遠征万騎団団長カミラだった。
「決着はついただろ。いい加減にしろよ。サイコ野郎」
カミラは珍しく・・・もないが怒っている。
「あらぁ、オリハルトの幹部様・・・神聖なる騎士の戦いに泥を塗らないでくださる?」
モデスタは厭味ったらしく言い放った。
「うるさい。おまえはオーディションでメイにも喧嘩を売った。許せねぇ。
私が針山になるほど槍を突き立ててやるから掛かってこい。」
モデスタは口角が引きつるほどに狂気の笑みを浮かべた。
「あら、私、貴方たちのお仲間になりたかったのにぃ・・・残念♡」
「黙れ!」
カミラはモデスタに飛び掛かった。
一瞬でモデスタとの距離を詰めたカミラは背中の槍を持ち替え
モデスタめがけて攻撃した。
「くっ!」
モデスタは間一髪で避け、近くの建物の二階まで大きくジャンプした。
モデスタの頬にうっすらと切り傷が浮かぶ。
その切り傷から流れる血をモデスタは指にとりペロッと舐めた。
「衝撃範囲が広いわねぇ。流石オリハルトの幹部。ヤリがいがあるわぁ♡」
「くそが・・・」
カミラは舌打ちをした。
メイはその様子を腕組んで真剣な眼差しで見ている。
「そこの墓場しか守れない奴と違って骨がありそうねぇ。
武装国オリハルトが敵・・・ってのも楽しいわ。
決めたわ・・・私はあなたたちの敵になってあげる!
これから一挙手一投足で神経を尖らせなさい!
私がいかなる時でもあなたたちの命を狙うわ!
喜びなさい!スリルある毎日を過ごせるわよぉ?
あはははは!」
「いかせるか馬鹿が!」
カミラがもう一本長槍をモデスタめがけて投げつけたが
モデスタは二階の屋根から裏側へ周り姿を消してしまった。
「衛兵!追うのですわ!」
ブリジットが部下に命じて数人が後を追いかけた。
「追うぞ!グレータ!」
グレータは頭を押さえて、ため息を吐いた。
「やれやれ・・・」
カミラとグレータは衛兵の背中を追って走っていった。
ブリジットはほかの衛兵と凶悪な騎士の対応を協議し始めた。
メイは一人座り込んでいるヴェーラをずっと見ていた。
ヴェーラは大きな体でちょこんと座り込んだまま放心していた。
そして数分が立つと一人でしくしくと泣き始めた。
ひっ・・・くっ・・・うっ・・・
その場で最も大きな体が最も肩を小さくして泣いていた。
あまりの悔しさで幼女に退化してしまったかのようだった。
メイはその背中をずっと見つめていた。
しばらくするとカミラとグレータが戻ってきた。
「くそ!逃げ足の速い奴だ!城下町に逃げられた!」
「王国全体に指名手配が必要だね。オリハルトの敵だと明言してたしね」
「そうだな!グレータ!お前も修行しなきゃな。あいつに負けんなよ」
「なんでうれしそうなんだよ。あたしは給仕係だ」
「キッチンの勝手口から入ってきたらどうするんだよ?」
「なんで城内に侵入されてんだよ。」
「空から攻めてくるかも・・・」
「バカミラ」
「この仮病女!」
「あ”あ”っ?」
カミラとグレータが会話しているとメイがゆっくりと話し始めた。
「私はヴェーラを幹部に迎え入れる・・・。」
カミラとグレータは二人で顔を合わせた。