導入
エバロン王国とグレゴリス帝国の合同訓練は
エバロン王国国境沿いの町、サージベールで行われた。
両国から幹部が数人と部隊が参加した。
両国が同盟を組んでからの初めての試みということもあり、
まるで何かのイベントのように穏やかに訓練は進んだ。
参加した両国の幹部たちはそれぞれ己の部隊を引き連れ
訓練場のあちらこちらに分散している。
そして両国の幹部どうしで訓練をする相手をお互いに見つけては
実戦に即した訓練を始める、という流れになっていた。
広い訓練場の一角では
グレゴリス帝国の帝下最高士官エステル・カラスと
エバロン王国の上位将官スージー・ティエンスの部隊が
合同訓練を行っていた。
軍国アストマやドラノマドといった強国が
同盟国のどちらか一方に攻めてきて攻撃を受けている際に、
もう片方が如何にスムーズに加勢できるか、といった想定で訓練は行われた。
部隊の訓練がひと段落ついた後、
エステルがスージーに声をかけた。
エステル「どうかな?スージー殿。お互いの部隊の訓練はひと段落したことだし、
私たちも一対一で剣を交えてみないか?」
スージーは少し考えた素振りを見せた後、笑顔を見せた。
スージー「そうね。私も体動かしたいし。・・・手加減はしなくていいの?」
エステル「御冗談を・・・。訓練とは言え、戦士の手合いに妥協の入る余地はありません」
スージー「ふふ・・・そうね。じゃあ私、真面目に行くわよ」
エステル「もちろんです。いいですね・・・空気が変わりました・・・」
スージー「あなたもね・・・ただの切り合いじゃ面白くないわ」
エステル「あなた・・・変わった体質をお持ちのようだ・・・。
装飾品の金属部分が肌にくっついていますよ・・・帯電かな?」
スージー「あら、鋭い目利き・・・楽しみね」
エステル「それじゃあ行きますよ!」
決着
エステラ「ぐっ。剣が持っていかれる・・・」
スージー「そうよ、私は剣士には強いの。
磁場を変えられるから鉄製の剣じゃ
狙いが定まらないでしょう」
エステラ「なるほど・・・相性は悪いようだ・・・ならば」
スージー「えっ」
スージーの目にエステラの剣が分裂したかのように見えて動揺した。
エステラ「この技を見切れますか!?」
スージー「きゃあっ」
エステラの鋭い一撃がスージーを襲った。
スージー「くっ・・・さすがね・・・」
・・・
二人の戦いは拮抗したまま小一時間が経過した。
天気が急変し、雨雲があたり一帯を多い始めた。
スージーはエステラの剣技に押されていたが、空を見上げ不敵に笑った。
スージー「悪いけど勝たせてもらうわ。感電しなさい!!!」
スージーはエステラの突進してきた斬撃を体を犠牲にして受け止めた。
エステラの攻撃後の一瞬のスキをつき
電撃をまとった拳でエステラの体をつかんだ。
スージーは全ての電気を放出した。
エステラ「ぐああああぁぁぁっ!」
エステラはたまらず叫び声をあげてその場に立膝をついた。
スージー「はぁ・・・はぁ・・・いかがかしら私の電気は・・・」
エステラ「ぐっ・・・体が・・・」
スージー「・・・まだやる・・・?」
エステラは疲れた表情で見下ろすスージーを見上げてほほ笑んだ。
エステラ「・・・いや今日のところは降参しましょう」
スージーは少し安心した表情を見せた。
スージー「あなたの技は素晴らしかったわ。
時や場所が違えばどちらが勝つかなんてわからないわ」
エステラ「あなたも電気だけの騎士ではありません。素晴らしい動きでした」
エステラとスージーはお互いに刀を収めて手を伸ばし握手でお互いの健闘を称えた。
◆ ◆ ◆
エステラは少し休む、と部隊員に声をかけて屋内に引っ込んでいった。
暗い室内でエステラは椅子に腰かけた。
エステラは目を閉じてから先ほどの試合を反芻しながら独りつぶやいた。
エステラ「訓練といえど、負けるのは悔しいものですね・・・
しかし・・・強い相手がいるというのは修行のしがいがありますね・・・」
エステラは一人で少し笑いながら腕の怪我をさすった。
満身創痍だったのだろう。
エステラは不気味な気配に気づいたが、遅かった。
???
(・・・このままずっと休めばいいよ・・・)
耳元で悪魔のようなささやきが聞こえた。
エステラは体中に異変を感じた。
切られた。体中を。
エステラは何が起こったかわからなかった。
エステラは意識が飛んでいくのを感じた。
視界の最後に移ったのはこちらを見下ろす邪悪な笑みを浮かべた口元だった。
◆ ◆ ◆
エステラの部隊員が様子を見にその部屋に入った時、
全身を切り刻まれたエステラが壁に磔にされていた。
その隣には"エバロンによる聖なる執行"と書かれていた。
部隊員は腰を抜かしながら他のグレゴリス幹部に報告しに行った。
その日を境にエバロンとグレゴリスに大きな亀裂が入ったのは言うまでもない。